捨てられた桔梗の菓子
小太郎が攫われた翌日ーー起きてきた永倉はすぐに異常を察する。
「ふぁぁ〜昨日は飲みすぎた。小太郎、来れなくてごめんなぁ」
まだ誰もが寝ている早朝。何も知らない永倉が、いの一番に台所に入る。
その瞬間ーー
永倉はいつもと何か様子が違うのを一瞬で感じた。
いつもはとっくに用意されているはずの朝餉が、用意されていない。
丁寧に片付けられているはずの台所が、今日はまな板がでっぱなし。包丁も出しっぱなし。
隊士たちがやったのなら納得はいくが、今の台所係は小太郎だ。
小太郎がこんなに何もかもをほったらかしにするなんて……
「……ッ!!」
その時、永倉は見つけた。
桔梗の菓子が、台所の床に叩きつけられているのを。
小太郎はいつも隊士たちが寝静まった頃に、こうして花の菓子を作る。
そして昨夜も、同じようにして……
永倉は無残に捨てられた桔梗の菓子を拾い上げる。その手は知らずのうちに震えていた。
永倉はすぐに気付く。
ーー小太郎の身に、何かがあったのだと。
「永倉さん、永倉さん!」
その時、焦ったような声が聞こえてきた。虎之助だ。
「お耳に入れたい事が……実は昨夜屯所から帰ろうとしていた時にーー」
* * *
虎之助の案内で来たのは山奥にある廃寺だった。
虎之助の兄、黒崎豹魔が潜伏しているという廃寺よりももっと不気味で、暗かった。
「永倉さんすみません。俺バレるのが怖くて……あとをつけるのが精一杯で」
「いや、お前はよくやったよ。俺一人だったら敵のアジトもわからなかった」
そう言う永倉の言葉は優しかったが、焦りも感じられた。
虎之助は物心ついた時から兄の殺気を浴びて育ってきたので永倉にあんな殺気を向けられたのに平然としてます。
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