狙われた小太郎
※今回から少しシリアスな話になります。
壬生屯所の台所にてーー
小太郎は今日も皆が寝静まったあと、日課の菓子作りをしていた。
時刻は夜八つ(午後22時頃)。
新撰組の隊士たちは皆寝静まり、風と虫の声だけがチリチリと聞こえる。
「可愛い子」
小太郎が桔梗の菓子を作り上げて満足していたその時ーー
ざわ、と嫌な空気があたりに広がった。
さっきまでチリチリと鳴いていた虫の声はなくなり、代わりにジトッとした視線が小太郎に絡みつく。
(武家に仕えていたから分かる。これは……殺気だ)
小太郎は元足軽の足の速さを活かして咄嗟に逃げようとした。だがーー
「……動くな」
小太郎が動くよりも速く、真剣が、喉元に当てられていた。
(これは……獣の匂い)
ガッ!
首元を刀の柄で小突かれて、小太郎は気を失った。
* * *
「……ん……」
小太郎が目を覚ますと、そこは屯所の台所ではなく、人がやっと一人入れるくらいの大きさしかない牢屋だった。
(ここは……俺は、攫われてしまったのか?)
暗い牢屋の中、必死に手探りで牢屋の中を探る小太郎。
(完全に人一人しか入れない。独房だ。材質は、丈夫な竹……刀があれば切れそうだけど……)
その瞬間ーー
がさり、と荒々しい足音が聞こえ、小太郎は瞬間的に身を縮こませた。
(武器はない、自害もできない)
「やあやあ、君かね。最近屯所の台所係に抜擢された『子リス』ちゃんは」
優しい声音だが、何の感情も読み取れない男が現れた。
真っ暗で姿は見えないが、一瞬照らされた月の光で髪の毛だけが見えた。
(白髪……?でもそれにしては声が若い)
「…………」
「……私は霧島藤吾。君は永倉くんとやけに仲が良いと噂で聞いてねぇ」
『永倉くん』と聞こえて小太郎は思わず声を出した。
「……兄さんをどうする気だ」
霧島のこめかみがピクリと反応する。
と同時にガシャン!!と音を立てて小太郎のいる独房を蹴る。
「……子リスちゃん、誰が話して良いと言った?」
「…………」
「……安心しろ。まだ子リスちゃんには生きててもらう。永倉くんを呼びだす囮としてね」
(囮……?!俺が……?)
「でもその間、逃げ出そうとしたり少しでもおかしな事をしようとしたら……その体を切り刻んで首を新撰組に届けてやる」
霧島は「いいね?」と酷く優しい声音で話しかけた。
俺が逃げれば、兄さんや他の隊士たちに迷惑がかかる……そうなれば、新撰組、果ては黒谷。京都中が危うくなる。
戦争になってしまう。
「…………」
小太郎は素直にこくこくと頷いた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




