虎之助が去ったあとで……
虎之助が去ったあとの台所で、小太郎と永倉は……
虎之助が去ったあとの壬生屯所・台所にてーー
「兄さん、あれは失礼でしたよ。せっかく虎之助さんがお酒を運んでくれたのに」
「…………」
永倉は拗ねているのか、怒っているのかわからないような表情で酒を飲んでいた。
「兄さん、酒ばっかり飲んでると体に障りますよ。今何かつまむものを」
「小太郎、寄れ」
焦ったような永倉の声に、つまみを取りに行こうとした小太郎の足が止まる。
小太郎は永倉の言葉に従って、永倉の隣に座る。
「ああ〜!小太郎小太郎小太郎!何でお前はそんな危機感がないんだよぉ〜!!今日はたまたま俺がいたからよかったものの、あのままじゃ虎之助なんかに殺されてたぞ!」
そう言って永倉は小太郎を抱きしめたままゴロゴロと転がった。
小太郎は軽いので永倉にされるがままだ。
「殺されるって……虎之助さんはただの商人じゃないですか」
「いや、それがそうでもないんだ」
永倉は虎之助が元武家だったこと、兄が怖くて家を出たこと、現在の虎之助の兄の潜伏先のことまでを小太郎に話した。
「ーーだからただの商人じゃないんだ。虎之助は。それに虎之助は獣のような兄と長く暮らしていたせいで人の感情の機微に敏感だ」
「何だか虎之助さんの境遇は俺と似てますね。俺も元足軽で、一応武家でしたから」
呑気にそんなことを言う小太郎。永倉の腕に知らず力がこもる。
「肝心なのはここからだ。あいつは今説明した通り人の感情の機微に敏感だ。もしお前の正体が分かったら……」
「大丈夫ですよ」
「??何が大丈夫だ?」
「その時はまた、今みたいに兄さんが駆けつけてくれるんでしょう?」
少し前髪が上がり、小太郎の可愛い瞳が見え隠れする。
「〜〜〜〜ッ!//お前それ、わざとやってんのか!!」
「……」
小太郎は永倉の言葉の意味がわからなかった。が。
「俺がこんな風に言うのは兄さんの前だけですよ」
破壊力抜群の言葉。
しかも無意識ときた。
永倉は頭を抱えた。
(クソッ、俺は新撰組なのに……考えれば考えるほど小太郎というドツボにハマっちまう)
「ねぇ兄さん、いつか俺が胡蝶蘭の菓子を作れるようになったら」
小太郎が永倉の腕の中で夢を語る。
夢は嫌だ。
叶ったことがない。
夢を見るたび、酷い現実が容赦なく叩き潰すのを何度も見て来た。
「……小太郎。それを語るのは後にしてくれねぇか」
今はただ、もう少しだけ。この小さな腕の温もりを感じていたいんだ。
「はい……そうします。兄さん」
永倉の言いたいことが伝わったのか、小太郎は何も言わず永倉の腕に擦り寄った。
正体を隠していますが小太郎は小菊という女性です(おさらい)。
職を失いたくなくて屯所で働いています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




