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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第二十二章・小太郎と永倉と……

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ある平和な屯所の台所

ある日の屯所です。

「こんちは〜っス!虎屋の虎之助です!」


 壬生屯所・大門に続く長い石畳にてーー


 荷車を押す虎之助の手は若干震えていた。


「…………」


 変だな。今日は沖田さんは黒谷じゃなくてここにいるって思ったんだけど……


 俺は虎之助。薬屋をやってた時は黒谷に出入りすることが多かったけど、最近では新撰組の永倉さんに酒を運んだり、市井(しせい)の酒屋に酒や薬を売ったり、噂話や情報を聞いたり、すっかりなんでも屋が板について来た。


 最近ずっと篝さんは沖田さんと行動を共にしてる。


 悔しいけど、篝さんは沖田さんの前では若干おとなしいんだ。


 今日はいつか俺がその場所になれたらいいなって思って来たのに……


「どうやらいないみたいだ」


 仕方ない。永倉さんに頼まれていた酒を運ぶか……


 * * *


「こんにちは、虎屋の虎之助です」


 俺は台所でちょこちょこ動く、隊士にしては小柄な人に声をかけた。


「あ、お疲れ様です。すみません気付かなくて。今夕食の支度をしていたもんで」


 俺は驚いた。俺の目の前には前髪が目の下まで伸びて、顔を泥と砂まみれにした痩せた隊士がいた。


(おいおい、この隊士は大丈夫なのか?他の方たちはあんなに筋骨隆々としているのに……この人はガリガリじゃないか)


 俺が口をポカンと開けて間抜けヅラを晒していると、


「何か召し上がりますか?」


 と言ってその痩せた子リスみたいな隊士は奥に行ったかと思うと、俺に茶とちょっとしたお菓子を用意してきた。


「あ、お構いなく。永倉さんに頼まれた酒を運んで来ただけなん……」


 いや、せっかく俺の為に子リスが用意してくれたんだから。召し上がらん方が失礼かな……


「ゆっくりしてってください。今日は暑いですから。行商の方も大変でしょう」


 や、優しい〜!!


 新撰組にこんなに優しい人がいるとは……

 

 兄貴ほどとはいかないけど、新撰組は容保公と近藤局長の元、選りすぐりの剣豪が集まる隊士たちの場所だ。

 そんな血の匂いと切るに切れない中で、こんな癒しキャラがいたなんて……


「宜しかったらこれもどうぞ。今朝漬けたものですが」


 子リスはそう言いながら沢庵を出して来た。


 俺はますます感動して、永倉さんの酒とか篝さんのこととか全部どうでも良くなっていた。


「子リス……じゃない、隊士さんの名前はなんと言いますか?俺は虎之助と言います」


「俺ですか?小太郎です。みんなが出払っている時にも俺は台所にいつもいるので、気軽に声かけてくださいね」


 やっぱり優しい……

 

 この殺伐とした屯所に何故こんな癒しキャラが??


 俺が頭を疑問符だらけにしていると、小太郎さんは俺の隣に座って何か作業をし始めた。

 

 料理でもない、漬け物を漬けるでもない。


(……菓子?)


「子リスさんは、菓子作りがお得意なんですか?」


 やべ!つい間違えて『子リスさん』て呼んじまった!


 俺がそう問うと、子リスさんは照れたように小さく笑う。


「得意だなんて……ただ菓子作りが好きなだけです。いつか胡蝶蘭の練り菓子を作るのが夢なんです」


 へー!へー!胡蝶蘭!


 小太郎さんの言葉を聞いて、俺は思い出していた。篝さんの櫛には確か、菊の花の飾りがついていたような……//


「子リ……じゃなくて小太郎さん。菊の花の菓子は作れますか?」


「一番得意ですよ。作りますか?」


「お、お願いします!ありがとうございます」


「ふふ、虎之助さんも篝みたいなことを言うんですね。菊が流行っているのかな?」


 篝?篝ってあの篝さん?


「小太郎さん、篝ってもしかして……」


虎之助はいつもこんな目に遭ってる気がする笑


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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