二人にとっての特別
触れるだけの口付けをされた篝は、その行為の意味がわからなかった。
「……ちょっとした挨拶ですよ。特別な……」
「特別……??」
特別と聞いて、篝の脳裏にいつぞやのでかい壬生狼(斉藤)と、その膝に平気で座っているおときの姿が浮かんだ。
でかい壬生狼(斉藤)が花の菓子をおときに食べさせ、頭を撫でている時のーー
【あれも特別な人にしかしないでしょう。お互いに想いあっていないとできない行為です】
あの時の沖田の言葉を思い出し、急速に顔が真っ赤に染まる篝。
慌てて上にいる沖田を押し退けた。
「は?は?は?は?ということはお前、お前は私のことを特別に思っているってことか?」
「……なんのことですか?」
「なんのことって今お前……」
篝は自分の唇に触れる。
(確かに今……)
「……僕にもわからない」
篝のその様子を見て沖田が首の後ろをかいた。
「なんの特別かはわからないけど、ただ僕にとって山猫は特別なんです」
そう簡単に死んでほしくない。
そう簡単に僕に負けて欲しくない。
でももし山猫が死ぬ時は、その時は僕に殺されて欲しい。
ーーそんな歪んだ僕の感情、きっと山猫ならわかってくれる。
「なんだ、そういうことか」
今の説明で納得がいったのか?今度は沖田が首を捻る。
「そんなの、斬り合いをすればわかる!」
篝にとっての沖田が何か。
沖田にとっての篝は何か。
「ええ、そうですね」
二人は互いに木刀を持ち合って、庵から紫の菊が咲き誇る庭へ出た。
* * *
「いやいやおかしいおかしい!なんで接吻して木刀持って外行くの?!前半のほのぼのした空気どこ行った?!」
「どうしましたおとめさん?」
小太郎が酒を注ぎながら問う。
「わかった!また総司がなんかやらかした夢を見たんだろ!俺も見たことあるから分かる。この間ははじめだった!」
小太郎の隣にいた永倉が思いついたように叫ぶ。
「あ〜珍しく悪酔いしちまった。こうなりゃ追い
酒しかねぇ!」
「あ、待ってください。その前に味噌田楽を……作ってみたんです」
「適当組」唯一?の常識人二人、いや三人が黒谷の庭先のあばら屋で酒を飲みながら駄弁っていた。
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