手を伸ばせば届くのに
「小太郎、約束してくれ」
「……はい、何でしょう?」
「俺以外に、素顔を見せないでくれ」
「……っ!」
今はまだ。これだけ言うのが精一杯。
自分でも狡いってわかってる。だけど……
「……わかりました。兄さんの前でだけです」
小太郎の優しい声が部屋に満ちる。
同時に永倉の心もさっきまでささくれ立っていたのがするするとほどけて行く。
「小太郎」
「はい?」
「……今一度見せてくれねえか?お前の……」
小太郎は永倉の言いたいことがわかったみたいで、自分の前髪をあげて見せる。
「これでいいですか?兄さん」
小太郎の前髪が挙げられ、その白くて綺麗な顔が顕になる。
(ああ、クソッ……)
「ありがとう、小太郎」
いくらか穏やかな心を取り戻した永倉は、静かに息を吐いた。
「お前に会うまで今日まで割とマジで飲めなかったんだ。付き合ってくれないか?」
小太郎はふふっと笑う。
「もちろん付き合いますよ。あ、これつまみになるかな……菓子作ってたんだけど」
小太郎はそう言って懐から花の飾り菓子を何個か取り出す。
永倉はその姿を見て焦る。
「いや、それはお前がとっとけよ。お前のために作ったんだろ」
永倉がそう言うと、小太郎は困ったように微笑む。
「俺は兄さんと食べたいです」
その微笑みが、あまりにも美しくて……
思わず伸びそうになる手を永倉は引っ込めた。
(……手を伸ばせば届くと言うのに)
永倉は自分が新撰組であることを、今ほど煩わしいと思ったことはなかった。
(こりゃ、はじめや総司のことも馬鹿にできねぇな)
そう自嘲して、永倉はそっと手を酒に伸ばしたのである。
僕たちよりもずっと重症ですよby沖田
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