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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第二十章・永倉の恋?

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兄さんの前だけです。

壬生屯所の台所で、小太郎は菓子を作っていた。そこへ新撰組に入りたての隊士がやって来て、小太郎の前髪をあげようとする。

「兄さん??」


 小太郎はいきなりの永倉の登場に驚いた。

 

 それは明彦も同じだったようで。


「永倉の旦那!てっきりお休みとばかり……」


「小太郎と約束してたの思い出したんだよ!」


 そう言いながら永倉は、まだ菓子を持ったままの小太郎の手を引っ張って自分の部屋に入った。


 一人残された明彦は、全く永倉の気配を感じなかったことに感動していた。


(全然気配を感じなかった……やはり組長クラスは格がちげぇや……)


 * * *


 襖の隙間から人気(ひとけ)がないのを確認し、永倉はひと息ついた。


「……何やってんだお()ェ、女だってことバレてもいいのか?」


 その声には珍しく焦りが感じられた。


「……大丈夫ですよ兄さん。俺は元足軽ですから。いざとなったら逃げられます」


「……そういう問題じゃねえよ」


「えっ?」


「お前の前髪あげた姿、誰よりも美人だったから。他の誰かに見られたくねえ……」


「びっ、美人?俺が……?//」


 二人の間に気まずい空気が流れた。


「……に、兄さん酔ってるんですよ。だから……」


 小太郎がどうしていいかわからない様子で誤魔化す。


「いや……酔ってねぇ」


(お前のことが朝から晩まで気になってずっと酔えねぇ)


「……俺は、新撰組だ」


「……はい、わかってます」


 小太郎は前髪で隠れて見えないが、永倉の目を見ていたはずだ。


(そう、俺は新撰組。色恋沙汰は、極力しねえ。あってもそれは一夜限りの名も知らない女でよかった)


「だが……お前の正体は俺だけ知っていればいいと思っちまう」


 この醜い感情が何なのかは知ってる。

 

 このどす黒くて、気持ちが悪くて、本人に会うまで不安で仕方なくて。


 会ってちょっと話したら今までのことを全部帳消しにできる感情の正体は。


 でも今は言えねえ。小太郎の負担になりたくねえし。何より俺が気持ちを認めちまったら、戦いの足枷になっちまう……


「小太郎、約束してくれ」


「……はい、何でしょう?」


「俺以外に、素顔を見せないでくれ」


「……っ!」


 今はまだ。これだけ言うのが精一杯。


 自分でも狡いってわかってる。だけど……


「……わかりました。兄さんの前でだけです」


 小太郎の優しい声が部屋に満ちる。


 同時に永倉の心もさっきまでささくれ立っていたのがするするとほどけて行く。


永倉の兄さんは、人斬りは人並みの幸せは手に入れられないと思い込んでいるのかな。涙


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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