小太郎と篝
「あれ?お前小菊じゃねえか?久しぶりだなぁ!」
俺が街に買い出しに出ている頃、聞き覚えのある声がした。
見ると『秋月篝』がこちらに手を振っている。
「わぁ!!篝!?なんで街なんかに……?お前は山から降りてこないはずだろう!それになんで俺のことを覚えてるんだ」
「飯をくれた奴は忘れねぇよ。今日はちょっと、草鞋を買いによ。小菊こそどうした?」
待て待て待て待て!!その名前はここではやばい!
「……ってわけで、職を失いたくないからわざと男のふりをして屯所の台所で働いてると……」
「そう、だから俺の名前はこれから「小太郎」って呼んでくれ」
「そういうことなら別にいいけど。小太郎」
「ありがとう!」
篝は俺がまだ足軽だった頃に、腹を空かせて往来のど真ん中で死にそうだったんで、飯をやったんだ。
命の恩人だと言われて、礼をさせてくれと言われたが、あいにく俺は運びの途中。
名前だけ教えてそのままだったんだけど……
「まさかまだ剣を振るってるとは思いもしなかったよ。しかも容保公と敏姫様の御前で……さぞ美しかっただろうな。お前の剣技は」
「んー、それが終わったらすぐ帰るつもりだったんだけど、おかしな『壬生狼』に絡まれちまってよ」
篝はそれからちょくちょく山から降りて来ていること、敏姫様の侍女頭のおとめさんと仲良くなったこと、同じく侍女のおときさんとも仲良くなれそう、とも聞いた。
あれ?おときさんて確か……
「おときさんて斉藤さんの書院で読み書きを習っている人ですか?」
「おお、よく知ってるな!そうそう、あのおチビ。いつも私の周りをチョロチョロしてて危なっかしいけど、なんかほっとけないんだ」
ああ……
「わかるな。おときさんて、ザ・女性って感じでいいよね」
「そうか?私はあんなひらひらした着物邪魔で仕方ねぇけどな」
「篝は相変わらずだね……」
「こりゃ驚いた。山猫にも友達がいたんですか」
いつのまに来たのだろう。全く気配を感じることなく、音もなくその男は私たちの前に立っていた。
ーー空気が張り詰めた気がした。
「……こいつがさっき話してた御前試合の後絡んできたおかしな『壬生狼』ーー沖田総司だ」
そう言うと、篝はめんどくさそうに沖田に目を向ける。
「なんの話ですか?」
さっきまでずっと張り詰めていた空気がスッと和んでいくのを感じた。
俺はなぜか永倉兄さんのあの言葉を思い出して少し笑ってしまった。
【恋仲ってなんだっけ?】
なんだかんだ言って沖田は篝が気になります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




