新撰組三番隊組長・熊騒動
自分は病ではなく恋だと聞いてますます気持ちが高まる敏姫様。今日も容保様をとめと一緒に探していたが、そこへーー
容保様のお姿が見当たらない。
「……殿はどちらへ行かれたのかしら」
姫様はそう呟きながら、廊下をきょろきょろと見回している。
「てっきり部屋にいると思ったのに……」
そう言って着物の端をぎゅっと握りしめる姫様。お可哀想だけど、可愛い。
(こうやって会いたい時に限ってなかなか会えないんだよねぇ)
私は少し後ろを歩きながら、姫様の様子を見守っていた。
その時だった。
――どすん。
廊下の向こうから、やけに重たい足音が響いてきた。
「……?」
姫様がぴたりと足を止める。
次の瞬間。
角から現れたのは――
背が高く、がっしりとした体格。見慣れぬ羽織。
そして、どこか鋭い気配を纏った男。
「…………」
「…………」
一瞬の静寂。
そして――
「きゃあああああああああ!!熊ですわあああああ!!」
(ええーーー!!!!)
姫様は全力で後ずさりする。
「とめ!屋敷に熊が!熊が出ましたわ!!」
「姫様落ち着いてください人です!!多分!!」
私も半分叫びながら否定する。
だが当の“熊”はというとーー
「……」
静かにこちらを見ているだけ。
いや、動じなさすぎじゃない?!
「……失礼」
低い声でそう言うと、その“熊”――いや男は、すっと頭を下げた。
「……っ!!」
姫様の動きが止まる。
「く、熊が……頭を下げましたわ……」
(いや熊じゃないから!!)
私は心の中で叫ぶ。
「……私は斎藤一。殿に仕える者です」
そう名乗った男ーー斎藤は、淡々と続けた。
「敏姫様のことは、殿より伺っています」
「……え……」
姫様は恐る恐る、斎藤を見上げた。
「……長らくご病気であられたが、この度快復されたと」
「……そ、そうですけれど……」
まだ半分くらい警戒している。
(まあ無理もないか……第一印象が熊だし)
「……おてんばだとも聞いている」
「おっ、おてんばではありませんわ!!」
姫様は即座に否定する。
(そこは即反応するのね)
その姫様の様子を見て、斉藤という男がほっとしたように息をついた。
――その時。
「……何を騒いでおる」
落ち着いた声が廊下に響いた。
「殿!!」
姫様の顔がぱっと明るくなる。相変わらずわかりやすいこと……
容保様が、こちらへ歩いてきていた。
「殿!熊が!熊が出ましたの!!」
「……熊?」
容保様は一瞬だけ視線を斎藤に向けーー
「……それは熊ではない」
容保様は困ったように微笑む。
「……斎藤一、私の護衛兼新撰組の三番隊組長だ」
「えっ」
「えっ」
姫様と私の声が揃い、二人同時に顔を見合わせる。
当時の新撰組は会津藩の配下でした。
指揮系統は容保→会津藩→新撰組という感じです。でもこれはIFの物語なのであまり深掘りはしません。
※当時の日本人の平均身長が158センチなので、約170センチの斎藤一は熊のように見えたという設定です。ちなみに敏姫様は139センチという設定です。
古い日本の城や屋敷の天井を見るとずいぶんと低く設計されており、昔の日本人の背の低さがわかりますね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




