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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第一章 奇跡が起こった夜

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容保様と敏姫の恋

敏姫が薬師を呼んだと聞いて慌てて飛んで来たという容保。

一方敏姫様は……


※とめ視点です。

「敏……失礼するぞ」


 そう言って容保様は姫様の部屋に入っていった。


 姫様は相変わらず布団を頭から被ったままだ。


「敏……薬師を呼んだと聞いて急ぎ来た。どこか悪いのか?顔を見せてくれ。無事かどうかを確かめたいのだ」


「…………」


 お二人には悪いけど私は今にも吹き出しそうだった。

 ただの恋にお二人とも真剣になって。

 でもその真剣さが、なんとも愛おしくて。眩しくて。


 だってお二人とも、つい先日まで恋なんかできなかったんだから。


 応援したいなぁ……


「……殿、敏は病ではありませんでした……」


 布団の中に潜り込んだままで、姫様が言葉を落とす。


「そうか、それを聞いて安心した」


 すると姫様は布団から手だけを出した。


「……で、でもその……敏は化粧も何もしていないので」


「??……化粧?」


「今はこれだけで勘弁してくださいませ」


 そう言って姫様はその小さな柔らかい手を容保様に差し出した。


 容保様はその手を迷わず取り、布団に優しく語りかける。


「敏、私はそのようなことは気にしないぞ」


「殿が気にしなくても、敏が気になるのです//」


「……そうか……」


 そう仕方なさそうに呟くと、容保様はほんの少し微笑んだ。


「……では敏、そなたの瞳だけは見せてくれぬか?」


 びくりと一瞬布団が震えた。


(動揺がわかりやすいなぁ……)


 と、その様子を私が微笑ましく見ているとーー


「……ほんの少しでよい」


 容保様の声は、いつもよりもずっと静かで、優しかった。


「敏の顔を見て、安心したいだけだ」


「…………」


 布団の中で、しばらく小さな気配が揺れる。


 やがて――


 本当に、ほんの少しだけ。


 布団の端が持ち上がった。


 覗いたのは、潤んだ瞳。


 頬は隠れているのに、それでもわかるくらい恥ずかしさでいっぱいの表情だった。


「……これで、よろしいですか……//」


 消え入りそうな声。


 容保様はその瞳を見て、わずかに息を止めた。


「……ああ」


 その一言が、やけに深く響く。


「十分だ」


 容保様は、握っていた姫様の手をそっと包み直した。


 まるで壊れ物を扱うように。


「……敏は、今日も変わらず綺麗だ」


「ーーっ!!//」


 布団がばさっと大きく揺れた。


 完全に潜り直したらしい。


(あーもう、だめだこれ)


 私はとうとう口元を押さえて肩を震わせた。


「殿……そのようなことを、簡単に言わないでくださいませ……//」


 布団の中からくぐもった声が聞こえる。


「簡単ではない」


 容保様はきっぱりと言った。


「思ったままを言っているだけだ」


(重い!真っ直ぐすぎて重い!!でもそこがいい!!)


「……敏」


「……なんでしょう……」


「顔を隠されては、少し寂しいな」


「〜〜〜〜っ!!//」


 布団がまたもぞもぞ動く。


 そして今度は――


 さっきよりほんの少しだけ、大きく顔を出した。


 頬は赤く、目は潤んでいるのに。


 それでもちゃんと、容保様を見ている。


「……これ以上は……無理です……//」


「……ああ。それでよい」


 容保様は静かに頷いた。その表情は、どこまでも優しく。満たされていて。


(……なんだろう)


 私はその様子を見て、ふと思った。


 このお二人ーー


 どちらかが与えて、どちらかが受け取っているんじゃない。


 お互いに、少しずつ満たし合っているんだ。


「……殿」


「なんだ」


「……あの……」


 姫様は、まだ恥ずかしそうにしながらも、勇気を振り絞るように言った。


「また……会いに行っても、よろしいですか……?」


 容保様は一瞬だけ目を細めて――


「……許しを得る必要があるのか?」


 と、静かに返した。


「敏が来たい時に来ればよい」


「……っ……はい……//」


 その声は、とても小さかったけれど。とても、嬉しそうだった。


(……ほんとにもう)


 私はそっと視線を外す。


(見てるこっちが照れるんですけど……)


 でも――


 この時間が、ずっと続けばいいと。


 心から、そう思った。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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