容保様と敏姫の恋
敏姫が薬師を呼んだと聞いて慌てて飛んで来たという容保。
一方敏姫様は……
※とめ視点です。
「敏……失礼するぞ」
そう言って容保様は姫様の部屋に入っていった。
姫様は相変わらず布団を頭から被ったままだ。
「敏……薬師を呼んだと聞いて急ぎ来た。どこか悪いのか?顔を見せてくれ。無事かどうかを確かめたいのだ」
「…………」
お二人には悪いけど私は今にも吹き出しそうだった。
ただの恋にお二人とも真剣になって。
でもその真剣さが、なんとも愛おしくて。眩しくて。
だってお二人とも、つい先日まで恋なんかできなかったんだから。
応援したいなぁ……
「……殿、敏は病ではありませんでした……」
布団の中に潜り込んだままで、姫様が言葉を落とす。
「そうか、それを聞いて安心した」
すると姫様は布団から手だけを出した。
「……で、でもその……敏は化粧も何もしていないので」
「??……化粧?」
「今はこれだけで勘弁してくださいませ」
そう言って姫様はその小さな柔らかい手を容保様に差し出した。
容保様はその手を迷わず取り、布団に優しく語りかける。
「敏、私はそのようなことは気にしないぞ」
「殿が気にしなくても、敏が気になるのです//」
「……そうか……」
そう仕方なさそうに呟くと、容保様はほんの少し微笑んだ。
「……では敏、そなたの瞳だけは見せてくれぬか?」
びくりと一瞬布団が震えた。
(動揺がわかりやすいなぁ……)
と、その様子を私が微笑ましく見ているとーー
「……ほんの少しでよい」
容保様の声は、いつもよりもずっと静かで、優しかった。
「敏の顔を見て、安心したいだけだ」
「…………」
布団の中で、しばらく小さな気配が揺れる。
やがて――
本当に、ほんの少しだけ。
布団の端が持ち上がった。
覗いたのは、潤んだ瞳。
頬は隠れているのに、それでもわかるくらい恥ずかしさでいっぱいの表情だった。
「……これで、よろしいですか……//」
消え入りそうな声。
容保様はその瞳を見て、わずかに息を止めた。
「……ああ」
その一言が、やけに深く響く。
「十分だ」
容保様は、握っていた姫様の手をそっと包み直した。
まるで壊れ物を扱うように。
「……敏は、今日も変わらず綺麗だ」
「ーーっ!!//」
布団がばさっと大きく揺れた。
完全に潜り直したらしい。
(あーもう、だめだこれ)
私はとうとう口元を押さえて肩を震わせた。
「殿……そのようなことを、簡単に言わないでくださいませ……//」
布団の中からくぐもった声が聞こえる。
「簡単ではない」
容保様はきっぱりと言った。
「思ったままを言っているだけだ」
(重い!真っ直ぐすぎて重い!!でもそこがいい!!)
「……敏」
「……なんでしょう……」
「顔を隠されては、少し寂しいな」
「〜〜〜〜っ!!//」
布団がまたもぞもぞ動く。
そして今度は――
さっきよりほんの少しだけ、大きく顔を出した。
頬は赤く、目は潤んでいるのに。
それでもちゃんと、容保様を見ている。
「……これ以上は……無理です……//」
「……ああ。それでよい」
容保様は静かに頷いた。その表情は、どこまでも優しく。満たされていて。
(……なんだろう)
私はその様子を見て、ふと思った。
このお二人ーー
どちらかが与えて、どちらかが受け取っているんじゃない。
お互いに、少しずつ満たし合っているんだ。
「……殿」
「なんだ」
「……あの……」
姫様は、まだ恥ずかしそうにしながらも、勇気を振り絞るように言った。
「また……会いに行っても、よろしいですか……?」
容保様は一瞬だけ目を細めて――
「……許しを得る必要があるのか?」
と、静かに返した。
「敏が来たい時に来ればよい」
「……っ……はい……//」
その声は、とても小さかったけれど。とても、嬉しそうだった。
(……ほんとにもう)
私はそっと視線を外す。
(見てるこっちが照れるんですけど……)
でも――
この時間が、ずっと続けばいいと。
心から、そう思った。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




