柔らかい獣?
虎之助の兄、黒崎豹魔が潜伏しているかもしれない廃寺に来た適当組の面子。
意外にも先陣を切って様子を見に行ったのは篝だった。
「それにしてもこの廃寺、本当に人が住んでるんですかね」
「……ほのかに火の匂いがする。人は住んでるよ」
篝がそう言って鼻をひくつかせる。
「さすが山猫」という言葉が沖田の喉から出かかっていたが、今言うべきではないとやめた。
「……ちょっと見てくるよ。壬生狼は羽織りが目立つし、隠密には向いてない。チビトラも、なんか事情があって行きにくいんだろ」
そう篝は言う。
結果的には篝がいてよかったのかもしれない。
新撰組は目立ちすぎるし、虎之助は兄がいるかもしれないので行けない。
「何か作戦でもあるのか?」
「まぁ見とけって」
篝はそう言うと、なるべく毛足の長い草むらに飛び移り、身を隠した。
「さすが山猫……姿が全く見えなくなりましたね」
「俺たちも隠れよう、なるべく体を低くするんだ」
しばらくして、浪人が話しながらダラダラと出てきた。
「虎之助、あん中に兄はいるか?」
永倉の問いに、虎之助は浪人の中に自分の兄がいないかを探した。
「……いません。もっと近くに寄れれば、話も聞けるのですが」
「なるほど、あいつらが去ったらお前は篝のいる草むらに行け」
「なっ、なんで俺があんな物騒な獣と二人きりに……」
「大丈夫大丈夫、篝もさっき話してくれたろ。あいつは今獣と人間の狭間で戦ってるんだ」
獣と人間の狭間。
【私は、自分が何者か知りたくてここに来たんだ……果たして私は獣なのか、人なのか】
虎之助は篝の言葉を思い出した。
何か思うところがあったのか、渋々と言った感じで口を開く。
「……じゃあ行きますけど、俺が斬られたら責任とってくださいよ」
半ば冗談、半ば本気で、虎之助は永倉に言い放ち、篝のところへ行った。
「チビトラ、どうしてここに?」
「こっちの方が近いからですよ」
「チビトラ!また浪人が出てきた!身を低くしろ!」
ドサッ!
ふにゅ!
「しかし豹魔の旦那の酒癖の悪さだけは受け入れ難いな」
「お前はまた首を絞められてたもんなぁ」
「でもいつのまにか火を起こしてくれてるし、飯も用意してくれるし旦那のおかげで生きていけるよ」
「俺たちも旦那の役に立ちたいけど、肩書きがないもんなぁ。新撰組が羨ましいよ」
「よせ、あいつらは人斬り集団だぞ」
そう言いながらドヤドヤと浪人は廃寺から出て行った。
飯の調達に行くのだろうか?篝がそう思って下を見た時ーー
「チビトラ?」
「な、なんでいきなりそんな……//獣のくせに柔らかいんだよ!!」
虎之助がそう話しているのは篝の胸の谷間だった。
おそらく虎之助の身を低くしようとした時に、篝の胸で虎之助の顔を押しつぶしていたのだ。
「??なんで怒っているんだ?」
「し、知りませんよ//とにかく浪人たちの話は聞いた。……一度永倉さんたちのところに戻ろう」
おや、虎之助のようすが……
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