本当に獣なんですか?
場所は変わって、ここは斉藤の書院。
沖田は篝と二人きりにされてどうしていいのかわからないでいた。
壬生屯所・斉藤の書院にてーー
子どものような顔で寝る篝とーーそれを見ている沖田。
沖田は篝と二人きりにされて、どうしたらいいか分からなかった。
目の前で寝ているのが、敏姫様なら、愛刀を抱き、敏姫様を守ればいいだけの話。
だが今沖田の目の前で無防備に寝ているのは篝だ。
顔を見合わせればすぐに喧嘩し、本気の斬り合いをする仲だ。
敏姫様じゃない。
沖田が守るべき対象じゃない。
「……僕には看病は無理なんですけど」
僕は斬り合いは好きだけど、寝込みを襲うのは趣味じゃない。
篝がたとえ隙だらけでも、殺す気にはなれない。
だってつまらないじゃないですか。
痛みも、苦しみも、無念も感じずに穏やかな死を迎えるなんて。
そんなのつまらない。
待てよ……
篝が虎之助の言うように、本当に獣だったら?
山から降りて来ただけの、ただの獣だったら?
沖田の中でぐつぐつと熱いものが込み上げる。
ーー試したい。
「……本当に寝てるんですね」
沖田は小さく呟いた。
篝は布団の上で眠っていた。
いつものような鋭い目つきもない。
木刀を握る時の獣のような殺気もない。
ただ静かに眠っている。
まるで別人だった。
「山猫のくせに」
沖田はフン、と鼻で笑う。
「…………」
沖田はゆっくりと立ち上がり、腰の刀に手をかける。
カチリ。
小さな音を立てて鯉口が切られた。
銀色の刃が現れる。
部屋の空気が変わる。
それでも篝は起きない。
「……ねぇ」
沖田は篝を見下ろした。
長い黒髪。
酒のせいか少し赤い頬。
無防備な、子どものような寝顔。
いつもなら考えられない姿だった。
「あなた、本当に獣なんですか?」
返事はない。
沖田は刀を握る。
試したかった。
虎之助の言葉が頭から離れない。
『獣は人と共存できない』
人を傷つける。
いつか誰かを泣かせる。
もし篝が本当にそういう存在なら。
もし本当に人ではなく獣なら。
今のうちに殺した方がいいのではないか?
それでもーー脳裏にチラつくのは。
髪紐を買った時の。
当たり前のように僕に髪を梳かせた時の。
僕との試合に勝った時、子どものように笑う時の。
濃い紫の組紐で結われた黒髪。僕が選んだ髪紐。
篝が髪を揺らすたび、その髪紐が見えて。
「…………」
足が動かない。
胸の奥がざわつく。
「なんだよ、これ……」
僕に背中を預けて平気な篝の姿が浮かぶ。
『そろそろいつものやろうか!馬鹿犬!』
僕のことを『馬鹿犬』と呼ぶ篝の姿が見える。
ゆっくりと刀を振り上げる。
切っ先が篝へ向く。
あと少し。
本当にあと少しだった。
次の瞬間。
ドン!
人と獣、相入れることはないのでしょうか。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




