幕間・徐々に慣れていく山猫
ある日篝はとめに誘われ山から降り、普通の茶店に入った。
「はっはっは!そうかそうか!そんなことがあったとはねぇ」
「すみません、おとめさん。結局は黒谷にお金を借りることになって」
「いいんだよ。容保さまも見事な剣舞のお礼がしたかったと言ってるんだ」
ここはいつもの黒谷のお屋敷ではなく、街の茶店。
篝は最初、飯どころと勘違いしていたらしく、甘味と茶しか売ってない茶店に衝撃を受けていた。
「それにしても高え……こんなちっこい茶菓子がこんなにするのか」
すると篝はある細工菓子に目を止めた。木の盆の上にちょこんと乗っているそれに、篝は目を奪われた。
「……菊?」
そこには小さな紅色の菊の花が咲いていた。
いや。よく見ると違う。
これは菊じゃない……
「……ひょっとして、これも菓子なのか?」
「へへ、綺麗だろう?」
とめが笑って言う。
「京都の菓子職人は器用なんだよ」
篝は言葉を失った。
山にはたくさんの花が咲いている。菊も紫陽花も、桔梗も椿も知っている。
だがそれは自然が作るもので……篝は人が作った花など見たことがなかった。
「……これ、食えるのか?」
「食えるよ」
「嘘だろ」
「本当だって。篝はこれが気になるのかい?」
店の者に言って、紅色の菊の菓子を取り出してもらう。
「すげえ……」
篝はどうなっているのかと恐る恐る菓子を持ち上げた。
それは壊れてしまいそうなほど繊細だった。
菊の花弁。
淡い色の重なり。
花の中心まで作り込まれている。
まるで庵の周りに咲く菊をそのまま小さくしたみたいだった。
「……もったいねぇ」
ぽつりと篝が呟く。
「食ったら無くなるじゃねぇか」
おとめは思わず笑った。
「そう思うなら職人の勝ちだね」
「勝ち?」
「ああ。食べるのが惜しいと思わせるくらい綺麗に作ったんだから」
篝はしばらくとめの顔と菊の菓子を黙って見比べていた。
おとめさんには素直な山猫(篝)です。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




