櫛の店で金勘定
会議にならないと土方は大部屋を出ていき、新撰組の会議はお開きという空気になっていた。
そこへ虎之助が現れて……
(斉藤さん、斉藤さん。ちょっと一寸よろしいですか?)
呼ぶ声の方を見ると、虎之助がいた。
「虎之助!!お前……おときは!?おときをどこへやった!?」
斉藤は虎之助の胸ぐらを掴まん勢いで凄む。
「やめろはじめ!虎之助はただの商人だぞ!」
「いえ、俺は平気です永倉さん」
虎之助はどうやら平気のようだった。元武家の生まれで、兄の殺気を散々浴びたからか、虎之助は何故か斉藤の殺気をもろともしていなかった。
「斉藤さん、お耳に入れたいことが。おときさんは今街で沖田さんと篝さんのストーカーをしています。同じ商人仲間から教えてもらいました」
その瞬間、虎之助の胸ぐらを掴んでいた斉藤の手から力が抜ける。
「な、な、なんだ……そうだったのか……」
斉藤はその場にヘナヘナとへたり込む。先程までの張り詰めた姿はどこにも見当たらない。
「何だよはじめ、そんなんで新撰組の仕事が務まるのかぁ?」
「それで今おときはどこに?」
永倉の言葉を無視して斉藤は虎之助に聞いた。
「まだ街にいます。櫛のお店で二人が金勘定で揉めてるみたいで」
それだけ言うと虎之助は酒を二、三本置いてさっさと帰ってしまった。
「……櫛の店?金勘定??」
「おお〜!灘の酒じゃねぇか!!虎之助は気がきくなぁ!」
* * *
「新撰組に払わせる?!冗談じゃねぇ!壬生狼に借りなんざ作れるか!」
「だから借りじゃ無いですってば。前と一緒です」
「私は自分が欲しかったからここに櫛を買いに来たんだ!
「でもこんなにするとは思わなかったんでしょう」
「そ、それはそうだけど……//」
お二人はお会計のことで揉めてるのかな?
私のお金、少ないけど……
「あっ、あのあの!!」
おときの涼やかな声がして、篝と沖田はほぼ同時に振り向いた。
「お前……あんときのチビじゃねぇか。こんな所で何してんだ。危ねぇだろ」
もうじき日が暮れるってのに。黒谷から一人で来たのか?
「……っ!おときさん、斉藤さんは一緒じゃないんですか?」
沖田がときの姿を見て思わず目を見開く。
以前、櫛を買った時の盗人事件【真珠の櫛事件】のことを斉藤から聞いて知っていたので、まさかおときが一人で街に来るとは思わなかったのだ。
「師匠がいたら街には出れませんもの!それよりかがりお姉様!私から提案があります」
おときは目をキラキラさせて篝の手を握った。
「黒谷に肩代わりしてもらいましょう!!」
さも名案かのようにおときは鼻息荒く言う。
「いや結局のところそれは借金じゃねぇか!!//おとめさんに怒られるぞオメェ!」
「し、借金??何のことですか??私、算術は苦手です!!」
「ブフォ!」
二人のやりとりを見ていた沖田が思わず吹き出す。
「ん……?」
その瞬間ーー
ピシリ、と。
見えない刃が張り詰めたような感覚がした。
※虎之助は元武家ですが今は苗字を隠して商人として生活しています。斉藤からの殺気に平気だったのは、怖いお兄さんの殺気を散々浴びていたからです。
さて、櫛の金勘定を巡っていますが、一体どうなるのでしょう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




