恋の自覚は、まだまだ先?
ある日、敏姫は悩んでいた。この気持ちが何なのかを……
この動悸はなんなんだろう?
殿の事を想うだけで、殿はその場にいないのに感じてしまう動悸……
もしかして何かの病気??
敏姫は生まれて初めて味わう感覚に戸惑っていた。
* * *
この胸の痛み……甘いのに辛い。幸せなのに拭えない不安。殿に会っているのにもっと会いたいという気持ち……
「きっとまた何かの病気にかかったに違いないわ!とめ!薬師様を呼んでちょうだい!」
「ええ……」
私はとめ。姫様にお茶を運び、たった今姫様から薬師を呼ぶようにと言われた女だ。
姫様には私が道で飢え死にしそうだった時に拾ってもらい、それ以来姫様の下働きとして忠義を尽くしている。
(ただの恋だと思うけど……)
仕方ないか。姫様は今まで伏せっていて、立つ事もままならなかった身。常に明日をも知れぬ身だった姫様だ。
恋なんて感覚、知るのは初めてだろう。
実は敏姫様は先日いよいよお迎えが来るって時の翌朝、不思議なことに元気になっていたのだ。
それはもう見違えるほど快活に。
はじめは私たちも驚いたけど、ずっと顔色が悪かった姫様の頬にうっすら血色がさし、ずっと暗かった瞳が光を取り戻して輝くのを見て「姫様が元気になったなら何でもいいや」ってなったんだよね。
だって今の姫様、すごく幸せそうで。全身で生きてるって感じがするもの。
私は仕方なさそうに軽く息を吐いた。せっかくだ。姫様だけが自覚してないご自身の恋心を自覚していただきましょう。
「……わかりました。少々お待ちくださいませ」
* * *
「……ふむ……」
薬師は脈を取り、慎重に姫様の症状を聞き、布団に丁寧に姫様の手を戻した。
「…………」
部屋中に気まずい沈黙が落ちる。
「ど、どうですか薬師様!やはり私は新たな病にかかって……」
姫様だけが真剣な面持ちで薬師に問う。
「恋ですな」
「えっ?!」
「殿の事を考えると胸が甘く苦しい」
「はい」
「殿の事で四六時中頭がいっぱいになる」
「はい、その通りですわ」
「殿にもっと会いたくなる。殿にいただいたかんざしに合わせた着物を考えるようになる」
「はっ//はい……//その通りです……//」
薬師の言葉に恥ずかしくなったのか、姫様は布団で顔を隠してしまった。
敏姫様は生まれて初めて味わう感覚に戸惑っていますね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




