ある日の壬生屯所ーー斉藤の苦悩
不器用な斉藤。夢みがちで先走りなおとき。
二人の感情はすれ違う。
「……俺にとっておときは、なんなんだろうな。守りたい、無意識に目で追ってしまう……煩わしいけどほっとけない」
「はじめ、そりゃお前ェ……」
「師匠!!」
永倉が言いかけた時だった。
斉藤のあぐらから、おときの顔がぴょこんと出てきた。
「ッ!おとき!どうしてここへ!?」
「師匠に渡した文を返してもらいに来たんです!」
そう言うとときはあっという間に斉藤のあぐらに乗った。
ときの夏の風のような涼しげな声に、浪士達が一斉に振り向く。
女子?
誰か遊女でも呼んだのか?
でもあのお嬢さん、どう見ても遊女って格好じゃねぇぜ。
(まずい。新八!)
「ほーい」
斉藤の指示で永倉はおもむろに立ち上がり、浪士達を牽制する。
「おら、お前ら。遊び女じゃねえ。はじめの客だ。何やら火急の用があるそうだ」
なんだ……斉藤さんの客か。
おかしいと思った。
堅物の斉藤さんが遊女なんか呼ぶわけない……
浪士達は急に興味を失ったようにまたドヤドヤと持ち場に戻って行った。
ーーその一方で。
斉藤のあぐらに乗っていたおときは目に涙をいっぱい溜めていた。
(どうやっておときはここに入ってきたんだ?いやその前にこの体制はまずいな、色々と……)
などと斉藤が一人で焦っているとーー
「……師匠、師匠にとって私は煩わしいですか?」
「……えっ……」
「師匠はさっき永倉さんと話してました。私は煩わしいって……」
【俺にとっておときは、なんなんだろうな。守りたい、無意識に目で追ってしまう……煩わしいけどほっとけない】
赤の他人からすればこれは完全に告白であり惚気なのだが、どうやらときの脳内ではそうならなかったらしい。
「……私が煩わしいなら、最初からそう言ってくれればよかったじゃないですか。わ、わざわざ文を返してもらいに来た私が馬鹿みたい……」
そう言っておときは斉藤のあぐらに突っ伏して泣く。
「……おとき、それは違う。俺は……」
「もういいです!師匠なんてきらい……むぐっ」
止まらないときの口を片手でふさぎ、その体を軽々と肩に担ぐ。
「……新八、俺は部屋に戻る。おときの誤解を解かなければならない」
「はいはい、いってらいってら」
そう言って永倉はシッシッとでも言うかのように二人を追い出した。
永倉はこちらに興味を持つ浪士達の気を逸らせ、斉藤夫婦のすれ違いコントを見せつけられ……
「もうこれ完全に厄日だろ!!土方、今夜は朝まで飲むぞ!付き合え!」
なるべく気付かれないようにずっと気配を殺していた土方が、永倉に同情したのか、困ったように眉根を下げた。
「ああ……付き合おう」
一番の被害者は永倉さんじゃないでしょうか。汗
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