ある日の壬生屯所ーー斉藤の頭痛
幕間の子話です。
斉藤と永倉の普段話さないような話が聞けるかも。
ある日の壬生屯所ーーここは浪士も組長クラスも誰でも入れる大部屋。
この大部屋は、普段から浪士たちが雑魚寝をしたり、適当なつまみで酒盛りしたり、囲碁や将棋をしたりする部屋なのだが。
そこにどういうわけか酒売りの虎之助と……
荷車に隠れてきたおときがコッソリと降りてきた。
もちろん虎之助は気付いていない。
虎之助が荷を確認した後にときがコッソリ身を忍ばせたからだ。
小柄なときだからこそできる芸当だった。
虎之助が酒を浪士たちに配っている間に、ときはサッと庭木に隠れた。
(わぁ〜ドキドキしたけど、とりあえず第一関門は突破しましたわ!)
第一関門とは虎之助の荷車に隠れてバレずに屯所に行くことだ。
ときにとっていろんな好条件が揃ってできただけのことなのだが……
そのときがここに何しに来たかというとーー
斉藤に渡した文を取り返すためだ。
斉藤に添削してもらおうと渡した文とは間違えて、、別の文を渡してしまったのだ。
ーー馬鹿馬鹿しい理由だったが、ときにとってはまた苦手な算術を受けさせられるかもと至って真面目だった。
一方の斉藤はというとーー
『おとめお姉様へ
りつも、着付けをたすけてくださって、あいがとうござります。
ときは、おとめお姉様がだりすきです。』
もうすでにときの誤字だらけの文を読んでしまっていた。
そこへすでに出来上がった永倉が絡みに行く。
「なんだ、またあのお嬢さんの文の添削かぁ?はじめはこんな時まで真面目だなぁ」
「……おときは真剣なんだ。こちらも答えなければ失礼だろう……」
一方のときは、庭木に隠れてキョロキョロと斉藤の姿を探していた。
それこそ真剣に。
(いた!!結構遠いわ!!でも机の下を通っていけばバレずに辿り着けるはず……)
ときは酒で酔って盛り上がっている浪士の目をかいくぐってスポンと机の下へと潜り込んだ。
(ふぅ〜、まずは第二関門突破だわ!)
浪士たちの笑い声と、噂話、不貞な輩の悪口等々。ときには聞こえていたはずだったが、本人はそれどころではなかった。
(師匠!私の文を読まないでください!)
「……はじめも居酒屋では姉ちゃんらに結構人気なのにもったいねぇ。土方には敵わねえけど」
「……それは新八も同じだろう」
(もうすぐです!師匠!)
「俺が言いたいのは、妾の一人でも持たないのか?てことだ」
「……そのような者は持つつもりはない。俺には行きずりの女子で充分だ」
「まぁ確かに。俺らみたいな危険な職についてるモンに、所帯を持つことは厳しいな」
「……それに俺には……」
そこで言い淀んだ斉藤の代わりに永倉が答える。
「俺には?ああ、おときさんのことか。可愛いらしいよな。いつもお前の周りをチョロチョロしてさ」
永倉の言葉に斉藤の眉間がピクリと動く。
「……お前ごときが軽々しくその名を口にするな」
「なんだいきなり怖えよ!!」
抜刀しそうな勢いで斉藤は永倉をにらむ。
永倉は焦って自分の手のひらを見せ、降伏の格好をした。
「悪かったって。でもあのお嬢さん、斉藤に会う時はいつも身綺麗にして、ワクワクしながら会いに行ってるっておとめさんから聞いてるぜ?」
「…………っ」
その永倉の言葉で、斉藤の表情がいくらか和らぐ。
この二人大好きなんです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




