似合う櫛も、僕が選ぶ
二人とも楽しそうだった。
菊の花が、舞っていた。
「ははっ!!」
「……ッ!」
篝が楽しそうに笑う。
沖田も気づけば笑っていた。
(なんだこれ)
「楽しいなぁ!馬鹿犬!」
楽しい。
悔しいほど。
こんな風に全力で剣をぶつけられる相手なんて、初めてだった。
「どうした馬鹿犬!!」
「山猫こそ!!」
沖田が踏み込む。
速さなら負けない。
そう思った瞬間だった。
ザァッ!!
篝が突然、菊の中へ飛び込んだ。
「っ!?」
視界が紫に埋まる。花びらと葉が……
(あの山猫、また目眩しを……)
沖田が瞬きをした瞬間、揺れる黒髪を見た。
まるで黒猫のように揺れる影……
「後ろだ」
「ーーっ!!」
気づいた時には。
篝の木刀が、沖田の首筋にぴたりと止まっていた。
風が吹く。
紫の花びらが二人の間を流れていく。
「…………」
沖田はしばらく黙っていたが、やがて深いため息を吐いた。
「……また負けた」
「はっは!やっぱ犬ころは犬ころだな!」
篝が勝ち誇ったように笑う。
沖田は悔しそうに眉を寄せた。
だが。
「……でも今日は機嫌良さそうですね」
「は?」
「髪紐。そんなに嬉しかったんですか?」
「なっ……!」
篝の顔が一気に赤くなる。
「う、うるせぇ!!//」
赤くなった顔を見られたくなくて、思わず篝は顔を逸らす。
「だって山猫、今日はずっと髪触ってるじゃないですか」
「〜〜〜〜ッ!!」
図星だった。
篝は顔を真っ赤にしたまま木刀を振り上げる。
「待っ、ちょっ、木刀で殴らないでくださいよ!」
「今日はお前を山から叩き落としてやる!!//」
* * *
ーー結局。
「……で、なんで馬鹿犬まで街についてくるんだ?」
篝は不機嫌そうに腕を組んだ。
隣では沖田が涼しい顔をして歩いている。
「山猫が櫛欲しそうにしてたからでしょう。僕が選んであげますよ」
「……別に欲しいなんて言ってねぇ」
「水甕見ながらずっと髪触ってたじゃないですか」
「見てたのかよ!!」
「丸見えでした」
「ッ〜〜!!//」
篝は顔を真っ赤にする。
沖田はそんな篝を見て、くすくす笑っていた。
「……まぁいいじゃないですか」
「何がだ」
「山猫に似合う櫛は、僕が選びます」
「また犬が付けるみたいな変なもん選んだら斬るぞ」
「大丈夫ですよ」
沖田はふっと笑う。
「山猫の髪、綺麗なのはちゃんと知ってるので」
「…………っ//!」
篝はまた髪を褒められて、何も言えなくなった。
「……馬鹿犬って人を褒めたりするんだな」
「は?僕のことなんだと思ってます?」
「壬生狼で馬鹿犬」
「……斬られたいんですか?」
「はっ!負け続けの分際で何を言う」
「まだ勝ててないだけです」
人の往来が激しくなってきた。いつのまにか二人は街に降りてきたのだ。
「……まぁ、いいけど。馬鹿犬なら少しは知ってるんだろ。街に何があるか」
「もちろん、この辺はしょっちゅう警備してますから」
「…………」
篝は紫の髪紐に触れながら、少しだけ歩く速度を緩めた。
沖田は自分でも無意識のうちに独占欲が芽生えています。わかりにくいですが……
最後まで読んで頂きありがとうございました。




