黒髪と紫の紐
戦うことでしか語れないことがある。
戦うことでしか分かり合えないことがある。
※改行多めです。
篝は庵の前に立ち、ゆっくりと木刀を構える。
濃い紫の組紐で結われた黒髪が、さらりと肩を滑った。
対する沖田はーー
「…………」
妙に黙っていた。
「なんだ馬鹿犬。来ないのか?」
「……別に」
口ではそう言うが。
沖田の視線は、さっきから何度も篝の髪へ向いていた。
風が吹くたび、艶のある黒髪と紫の紐が揺れる。
そのたびに、妙に胸がざわついた。
(……なんだこれ)
自分で選んだ髪紐なのに。
実際に篝が着けているのを見ると、思った以上に似合っていた。
悔しいくらいに。
「……似合ってますね」
「は?」
篝が目を瞬かせる。
沖田は言ったあとで、自分が何を口走ったのか理解して顔をしかめた。
「……いや、別に。ただ山猫のくせに少しはマシに見えるっていうか」
「お前それ褒めてんのか?」
「褒めてません」
「どっちだよ」
篝が呆れたように笑う。
その笑みに、沖田の胸がまた変にざわついた。
「……来ないならこっちから行くぞ」
次の瞬間。
篝が地を蹴った。
バッ!!
紫の花びらが宙を舞う。
「っ!!」
(そうだった、山猫は花で目眩しをするんだ)
沖田は反射的に木刀を振り上げた。
ギィィン!!
重い衝撃。
篝の一撃は細腕とは思えないほど鋭かった。
「ほらどうした馬鹿犬!!」
「……うるさいですよ山猫!!」
沖田が踏み込む。
速い。
沖田の動きは以前よりさらに速くなっていた。
低く滑るような踏み込みから、一気に喉元へ突き込む。
だが篝は笑った。
「遅ぇ」
ガッ!!
木刀を滑らせ、沖田の攻撃を逸らす。
そのまま体を半回転。
黒髪が弧を描く。紫の髪紐が日に反射する。
「っ!!」
沖田は咄嗟に身を引いた。
頬を、篝の木刀が掠める。
風圧だけで肌が切れそうだった。
「……本当に容赦ないですね」
「手加減されてぇのか?」
「まさか」
沖田の口元が吊り上がる。
その顔は楽しそうだった。心の底から。
ギィン!!
バシィ!!
ガッ!!
木刀同士がぶつかるたび、花びらが舞う。
紫陽花が揺れる。
菊が震える。
篝の黒髪と、濃い紫の髪紐が陽炎のように揺れて。
その姿は、まるで山を駆ける獣。
沖田は鋭かった。
まるで人を斬るためだけに研がれた刃。
普通なら、とっくにどちらかが死んでいる。
なのに二人とも笑っていた。
二人とも楽しそうですね。
普通の人なら死ぬような戦いをしてるのに。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




