馬鹿犬が選んだ髪紐
周囲を岩山に囲まれ、紫の菊の中にひっそりと建つ質素な庵にて。
篝は自分の髪を見つめていた。
街から離れた岩山に守られ、そのさらに奥の紫の菊に囲まれた質素な庵にてーー
秋月篝は髪を褒められてから、水甕に溜まった水を鏡にして自分の髪を見る機会が多くなった。
「そんなに綺麗なのか?私の髪って……」
確かおとめさんは私の髪を櫛で梳いてくれていたな。
あのおとめさんの手つき、優しくて、心地よかったな……
褒められた髪を、手櫛ですいてみる。
…………なんか違うな。
「確かおとめさんは、私の髪をすいてくれた後にそのまま自分の髪にさしてたな」
また街に降りればおとめさんと同じくらいの櫛、あるかな?
「どうしたんですか山猫」
いつのまにか沖田が私の背後に来ていた。
私は咄嗟に身構えて、腰の太刀に手を伸ばした。
だがーー
意外にも、沖田は攻撃してこなかった。
私の背後を取れたのに!?
「そんなに隙だらけの山猫を殺しても意味ないですから」
「……試合をしに来たのか?」
「そうですよ。それ以外に何がありますか?」
チッ、めんどくせぇな。今日は櫛ってやつを買いに行きたかったのに……
「準備するから少し待ってろ」
私は前に馬鹿犬(沖田)に選んでもらった濃い紫色の髪紐を取る。
なんで髪を褒められたごときで浮かれてるんだろう。なんでこんな紐ごときで浮かれてるんだろう……?
私は水甕に映る紫の紐を見た。
何故か。
馬鹿犬が選んでくれた髪紐をつけたところを見てもらいたいと思った。
(なんでこんなことを思うんだろう)
「待たせたな」
「……っ……」
馬鹿犬が私の髪を見て一瞬息を止めたのがわかった。
似合うか?
似合わないか?
感想はいらねぇ。
「さぁ、やろうじゃないか」
私はこの生き方しか知らないのだから!
紫の菊が風に揺れる。
昼下がりの光が、岩山の奥にひっそりと隠された庵を照らしていた。
次回はまたバトルだと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




