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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第十五章 山猫は心を開くもの?

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斉藤一とおときの日常

今回はまったりとした話です。

しとしとと雨の降る日ーー斉藤の書院では……

 壬生屯所ーー斉藤の書院にて。


 障子の向こうでは、夏の雨がしとしとと降っていた。


「……今日はここまでだ」


 斉藤が筆を置く。


「はい!ありがとうございました、師匠!」


 ときは嬉しそうに頭を下げた。


 文机の上には、今日練習した文字が並んでいる。


『ありがとう』


『うれしい』


『また教えてください』


 どれも少し歪ではあるが、以前よりずっと綺麗な字だった。


「……上手くなったな」


「ほんとですか!?」


 ぱっと顔を輝かせるときを見て、斉藤の表情がわずかに緩む。


「……ああ」


 すると、ときは何やらそわそわし始めた。


「……どうした?」


「え、えっと……師匠は、おまじないって信じますか?」


「おまじない?」


 斉藤が怪訝そうに眉を寄せる。


「この前、町で聞いたんです。『大好きな人のおでこに口付けすると、ずっと元気でいられる』って!」


「…………」


 斉藤が固まった。


「だからその……師匠に日頃のお礼がしたいんです!」


「礼?」


「はい!文字を教えてくれて、落雁もくれて、櫛もくれて……いつも優しいから」


 ときは一生懸命そう言って、ぎゅっと袖を握りしめる。


「……だから、師匠がずっと元気でいられるように、おまじないしたいです」


「…………」


 斉藤は黙ったままだった。


 だが耳だけがじわじわ赤くなっていく。


「……嫌、ですか?」


 不安そうに見上げてくる黒い瞳。


 その瞬間、斉藤は小さく息を吐いた。


「……いや」


 そう言って、少しだけ身を屈める。


「……好きにしろ」


「……はい!」


 ときは背伸びをした。だが身長が足りない。


「ぅ……届かない……」


「…………」


 斉藤はしばらく無言だったが、観念したようにさらに腰を屈めた。


「……これで届くか?」


 斉藤がときに聞いたその瞬間ーー


 ちゅっ。


 柔らかな感触が、額に落ちる。


「……これで、師匠はずっと元気です!」


 満足そうに笑うとき。


 一方の斉藤はというとーー


「…………」


 完全に固まっていた。


 耳どころか首まで真っ赤である。


「師匠?」


「……おとき」


「はい?」


「……お前は、そういうことを簡単にするな……」


「えっ?どうしてですか?」


 本気でわかっていない顔だった。


「…………」


【大好きな人のおでこに口付けすると】


「……おとき、お前は俺以外に大好きな人はいるのか?」


「はい!」


 その返事を聞いて、斉藤のこめかみがピクリとする。


「そ……そうか……」


 斉藤の心臓が無意識のうちにドクンドクンと脈打つ。


(何だこの動揺は……)


「敏姫様と、おとめお姉様、侍女のお姉様方、それに師匠が大好きです!」


 そのおときの言葉を聞いた斉藤はなぜかホッとしていた。


(なんだ、そういう……)


 だが次の瞬間ーー


「……そういう事は俺だけにしろ」


「えっ?なぜですか?」


(……なぜ?か……)


「それは俺が知りたい……」


「えっ?」


「とにかく俺だけにしろ、俺以外に同じ事をしたらおときの苦手な算術を受けさせるぞ」


「ええー!算術はいやです!」


 算術を思い出してゾッとしたのか、ときが体を震わせる。


「じゃ、じゃあ敏姫様には?敏姫様はずっと病で伏していたし、ときのおまじないでますます元気になっていただきたいです!」


 斉藤は長いため息を吐いた。


「……わかった。だが今のおまじないは俺と敏姫様以外にはするな。約束だ」


「はい!約束です」


 斉藤は無邪気なおときを見て頭を抱えた。


 この女子(おなご)は、

 俺の心臓を止める気かとーー


 * * *


 その頃、障子の向こうでは。


「……永倉さん、今入ったらきっと死にますよ」


「おう、総司。俺もそう思う」


 永倉と沖田が、そっと静かに踵を返していた。

すみません斉藤とおときが好きすぎて無理矢理この話を捩じ込みました。

この二人これでも付き合ってないんですよ(笑)


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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