野生の獣
おとめは篝の見事な黒髪を褒め、近藤に贈られた櫛で篝の髪を梳いていた。
そこへ沖田がやってきてーー
「はっはっは、それでそんな身なりなのかい!美人なのにもったいない!」
「私は剣しか知らずに生きてきたもんですから……」
「でも髪は綺麗にしてるじゃないか。どれ、見せてみ?」
と言うとおとめさんは、適当に縛ってあった私の髪を解いた。
「こんな綺麗な髪をこんなぞんざいな紐で縛ってる女なんて、今時百姓くらいだよ」
心底もったいないとでも言うかのように、おとめさんは私の髪を櫛でときはじめた。
「これはあんたの言う『壬生狼』の一人からの贈り物の櫛だよ。私に惚れてるんだってさ」
全くどこがいいのかねぇ?と言いながら私の髪をすく。その手つきがすごく優しくて……
「……私の髪は、母の遺伝だと思います……」
こんなこと誰にも話したことないのに。おかしいな。おとめさんには何故か話してしまう。
「へぇ!それじゃお母様もこんなに綺麗な黒髪だったのかい!」
「……そんなにこの髪を褒められたことないですよ。私はただ、動きやすかったらそれでいいと思ってたんで……」
「はっはっは!本当にもったいないねぇ!」
ーーと、そこへ。
「……へえ。髪は見れるじゃないですか。髪は」
気配はなかったが、この喋り方。これは『壬生狼』ーー沖田総司だ。
「ちょっと沖田!女子トークに水を差すんじゃないよ」
「誰が女性ですか?おとめさん?それともそこの野生の獣ですかねぇ?」
「ああ?誰が野生の獣だ馬鹿犬」
顔を挙げた視線の先には、先ほど試合をして、私に負けた男ーー沖田がいた。
(……!この女、髪をおろしてる……)
何故か沖田は驚いており、赤くなった顔を逸らしたように見えた。
は、私に負けただけじゃなく酒も弱いってか?
「……狼でもねえな。お前は負け犬だ。私に負けたんだからな」
その途端、沖田の目つきが変わった。人斬りの目だ。
「…………かがりさん、僕に喧嘩売ってます?」
「わーわー!やめやめ!ここは黒谷だよ。刃傷沙汰は御法度!!それに沖田は土方さんに簡単に抜刀するなって教えられただろ!?」
おとめさんのその言葉にハッと目が覚める。
そうだ。ここは黒谷だ。
いくら『壬生狼』が相手でも、感情的になってはいけない。
「……すみません、おとめさん。ついさっきまでこの「馬鹿犬」とやり合ってたもんで……」
「……まだ言うの?それ」
チャキッと鯉口を切る音が聞こえ、ついにおとめさんの雷が落ちた。
「やめんかぁ!!!!」
沖田と篝、これからこの二人がどうなっていくのか楽しみですね。
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