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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第十四章 山から降りた山猫

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波乱の女剣士

黒谷の演武場。そこに女剣士が登場した。その名は秋月篝(あきづきかがり)

 黒谷ーー会津藩邸 演武場にて。


 初夏の青い空の下、乾いた木刀の音が響いていた。


 黒谷ではこの日、容保公の御前で剣技披露が行われている。


 集められたのは会津藩士、新撰組、そして諸国から招かれた腕自慢の剣士たち。


「次の者、前へ」


 静まり返った演武場へ、一人の人影が現れた。


「……女?」


 ざわ、と周囲がどよめく。


 そこに立っていたのは、若い女だった。


 色褪せた藍色の着物。

 

 裾は動きやすいよう端折られ、袖も紐で乱暴に縛られている。


 長い黒髪は一本に束ねられており、その長い束が揺れるたびに烏羽のように光る。


 とても御前試合に出るような身なりではない。


 まるで山から降りてきた野盗か流れ者。


 だがーー


 その腰に差した刀だけが、異様な気配を放っていた。


「……秋月篝(あきづきかがり)。参ります」


 低く、よく通る声。


 その瞬間。


 演武場の空気が変わった。


「…………」


 警備に当たっていた斉藤の目が細くなる。


(……なるほど)


『いつか手合わせしたい者』


 そう記した理由が、一目で分かった。


 あの女ーー強い。


 立っているだけで分かる。


「なんだあいつ。全然愛想ねぇな」


 永倉が腕を組みながら呟く。


「……でも隙もありませんね」


 沖田だけは笑っていた。

 強敵あるいは自分と同等に戦える相手を前に高揚しているのか。


 まるで獲物を見つけた獣みたいに。


 一方、上座では敏姫が目を輝かせていた。


「まぁ……素敵な方!」


「敏……女子(おなご)とはいえど剣士だぞ」


 容保公が困ったように笑う。


「でも、ずいぶん変わった女ですねぇ。まるで山猫みたい」


 敏姫の側に控えていたとめがそう口にする。


「まぁ、とめったら……」


 その頃、ときはというとーー仕事をほっぽって演武場を覗きに来ていた。


「……かっこいい……」


 そして、完全に篝に見惚れていた。


 篝は、観客席をぐるりと見渡し、視界に新撰組の羽織を見つけた瞬間、露骨に眉をひそめた。


「……なんだ。壬生狼(みぶろ)までいるのか」


 小声で呟いたその言葉を、耳のいい沖田だけが聞いていた。


 いつも冷静な沖田の眉根がピクリと動く。


「へぇ……面白いこと言うじゃないですか」


 その笑顔だけが妙に黒かった。

篝に壬生狼(みぶろ)呼ばわりされて沖田は面白がっていますが果たしてこの御前試合はどうなるのか。波乱の女剣士の登場です。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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