幽霊の正体
結局しれっと調査に参加してきた斉藤。
若い隊士が逃げてきた方に井戸があるのを確認し……
夜更けの壬生屯所にてーー
見回りをしていた若い浪士が、青ざめた顔で広間へ駆け込んできた。
「で、出たァ!!」
「……なんだ騒々しい」
当然のように参加してきた斉藤が問う。
「白い女です!!長い髪で……井戸のところに!!」
その場の空気が一瞬静まり返る。
すると永倉が豪快に笑った。
「はっはっは!どうやら幽霊の噂は本当だったらしいな!」
「……ふん。幽霊なんかより人間の方がよっぽど怖いですよ。僕は信じませんね」
なんでこんなこと……とブツクサ言っていた沖田もしれっと参加していた。
「……確か見回りの隊士が走って来たのは、井戸の方からだったな」
斉藤の言葉に、夜の屯所は静まり返る。
『井戸』というのは昔から出ると言われているからだ。
サワサワという風の音すら幽霊の声に聞き間違えそうだ。
「……なんか、この辺寒くね?」
「初夏の夜だから冷えるのは当たり前ですよ。……ひょっとして永倉さん怖いんですか?」
「ああ?また稽古してもらいたいか総司ィ?」
「もちろんいいですよ。今の僕は姫様の友達ですから」
何やってんだこいつら……
沖田に至ってはそれ関係あるか?
私は二人のやりとりに呆れながらも、隊士の来た道を辿る。
「……姐さん、暗いから足元気をつけて」
珍しく斉藤が気を遣っている。前は気にもしなかったのに。
これもときの影響か?全く羨ましいねぇ……
「ああ、提灯持ってるから大丈夫だよ」
ほんのり明かりが見えて、井戸がその明かりに照らされている。
普段は浪士たちの洗濯に使ったり、料理に使われている井戸は、昼とはまた違った雰囲気だ。
「見て斉藤!!」
私は小声で斉藤の袖を引っ張る。
私の指の先には確かに白い服を着た女がいた!!
だがその正体はなんと……
「殿……敏は……」
「いや、なんか違うわ!」
「師匠……ときは……」
「いや、これも違う!もっと空想っぽいのがいい!」
ーーその正体は、ときだった。
何やってんだあの子は……
全てを悟った斉藤が顔を覆う。
「……何をやってるんだあいつは……」
「待って斉藤、しばらく様子を見よう」
ときは井戸の縁に腰掛けて何かを書きだした。
お得意の花柄の便箋だ。
『たまよりひめさまへ
ときをもう少しきれいにしてくれて
おししょうさんに
ほめられたいです。
ときはおししょうさんにほめられりのが
いちばんすきです』
できた!と言わんばかりに目をキラキラさせて、ときは文を掲げる。
どうやら夜な夜な人気の集まらない井戸に来て、文の練習をしているらしい。
何も壬生屯所でやらなくても……斉藤に一番に見せたいからか?
ときの考えてることは今いちわからない。この前まで屯所のことを「野獣の巣窟」とか言ってたのに。
しばらくして、ときが周囲を見、誰にも見られていないことを確認し、何かの箱を取り出した。
玉依姫様というのは京都にある下鴨神社で祀られている神さまです。
それはそうと、私はこのおときと斉藤の関係性が可愛いくて仕方ないです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




