真珠の櫛事件
斉藤に真珠の櫛を買ってもらったおときは上機嫌で歌っていた。斉藤はその様子を頷きながら見ていたが……
「『あ』と『お』、お菓子の『お』♪」
ときは櫛をもらったからか、上機嫌で即興で変な歌を作って、くるくる回りながら歩く。
「お菓子の『お』、あなたの『あ』♪」
斉藤はその様子を、微笑みながら見て歩いていた。
(……やはり、ときは笑っている顔が一番だな)
「師匠!私今、最高に幸せかもしれないです」
ときがそう言って斉藤の方に振り返った時だった。
「…………」
突然ときの背後に盗人が現れ、ときが斉藤に買ってもらった櫛を奪おうと斬りつけようとした!
「おとき!!」
だが、斉藤の刀の方が速かった。
ギィン!!
耳をつんざくような金属音が響き、盗人の刀が宙へ弾き飛ばされる。
「なっ……!?」
盗人が目を見開いた時には、もう遅かった。
斉藤はときを背後へ庇うように前へ出ると、そのまま相手の喉元へ切っ先を突きつける。
夕暮れの陽が刀身に反射し、白く光った。
「……動くな」
低い声だった。
怒鳴り声ではない。
だがその場の空気を一瞬で凍りつかせるほどの迫力があった。
盗人の額から冷や汗が流れる。
(な、なんだこいつ……)
一瞬だった。
抜刀したと思った時には、もう目の前に刃がある。
まるで獣に喉笛を噛まれたような恐怖。
盗人の足がガクガクと震えた。
「ひっ……!」
「……女子を狙うとは、この辺の盗人も随分と落ちぶれたものだな」
斉藤の瞳は冷え切っていた。
屯所でときを相手にしている時の穏やかさはどこにもない。
まるで別人。
「し、師匠?一体何が……?」
背後でときが震える声を漏らす。何が起きているかは逆光で見えていないようだ。
すると斉藤は、一瞬だけ表情を緩めた。
「……安心しろ。怪我はないか」
「は、はい……」
だが次の瞬間には、また冷たい視線を盗人へ戻す。
「……さて。どうしてくれようか」
盗人はそこで初めて気づいた。
この男。
ただの町侍ではない。
腰に巻かれた浅葱色の羽織。
そして人を斬ることに、一切の迷いがない目。
「し、新撰組……!!」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の空気がざわめいた。
斉藤は新撰組の特徴的な羽織りを腰に巻いていたので盗人は気付いてなかったんだと思います。
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