堅物・斎藤一の春?
怪文書の犯人がとめの後輩・おときと判明した。
そこで何故か斉藤が「文字を教える」と言ってきて……
壬生屯所の離れの書院にてーー
「まず、あ行からだ。『あいうえお』はわかるな?」
「はい!師匠!『おいうえあ』ですね!」
「……違う……」
斉藤は壬生屯所の離れの書院で、早速ときに文の書き方を教えていた。
何故か斉藤はときに『師匠』と呼ばれていた。
「……お前は『あ』と『お』を間違えて覚えている。この文を読み返してみろ」
《まいにち あなたをあもっています。》
「あもっています。ではなく、『おもっています』だ」
「はい師匠!『あ』と『お』ですね!」
ときは意外にも素直に斉藤の教育を受けていた。
「……そうだ」
「まいにち、あなたを、おもっています。書けました師匠!」
斉藤はときからできたと言われた文を受け取る。
『まいにち あなたを おもっています』
「……ときは覚えが早いな」
斉藤は好物の落雁を取り出すと、ときに差し出した。
「ひとつ食べるがいい。ときが覚える度に一個やる」
「えっ!?そ、そんな……こんな高級なお菓子……そんなことでいただけませんわ!」
斉藤はため息を吐く。
「……俺は甘党だから、こんな菓子などたくさんある。心配は無用だ」
それを聞いてときの顔が嬉しそうに輝き、落雁を片っ端から貪ろうとする。
その姿を見て斉藤はそっとときの手を止める。
「そんな焦らずともよい。こういう菓子は一口ずつ、ゆっくりと味わうものだ」
焦らず、ゆっくりと……
ときが混乱していると、斉藤が仕方無さそうにひとつ落雁を摘む。
「こうしてひとつずつ摘んで……」
ときが斉藤の真似をして落雁を慎重に摘む。
「それをそのまま口の中に」
「摘んで……そのまま口の中に……」
口の中で落雁がホロリと溶ける。その甘みにときは感動した。心なしか目に涙が浮かんでいる。
「わぁ……美味しい!!こんな美味しいもの、初めて食べました。斉藤さん、ありがとうございます」
ドキッ……
斉藤はときの笑顔を見て、胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。
(……この気持ちは何だ?もっと、ときの喜ぶ顔が見たい)
「『あ』と『お』、『お』と『あ』」
そう言うとときは、また文机に向かって『あ』と『お』の練習をし始めた。
その顔は落雁を食べたからか、嬉しそうに綻んでいて。
普段無表情な斉藤も思わず釣られて微笑んでしまうのだった。
* * *
「……なるほど。あの女子がときか……ずいぶん熱心にはじめの言葉を聞いてるじゃないか」
襖越しにずーっと二人のやりとりを聞いていた土方がうんうんと頷き。
「ったく、教育って言うからてっきり土方みたいにビシバシするのかと思ったらよぉ」
永倉がつまらなさそうにあくびをし。
「……意外にもゲロ甘ですね」
沖田が本当に意外といった顔をし。
「胃もたれしちまうよ!永倉、私らは酒だ酒!」
馬鹿らしいとでも言うようにとめがそう吐き捨てた。
おときは可愛いですね。
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