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早咲きの蓮華は地面に咲いた  作者: 雨夜玲
それを望んだわけではない
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気づいた感情

「ギル、これ取れ」

「やーだ」

 カップ麺の処理をしたあと、ネックレスを取ってもらうことを思いだしてギルに頼むが、外してくれない。

「食後に取る約束はどうした」

「……んー。だってそれ着けてるのかっこいいのに自覚してくれないんだもん!」

 こんな容姿をかっこいいと思うほうがどうかしている。

「あ、今日俺と一緒にお風呂入ってくれるなら取ってあげ」

「自分で取る」

 銭湯とかならまだしも。

 洗面所になら鏡がある。不快ながらも自分の体を視界に入れてネックレスをいじる。そしてギルに肩を(つか)まれて阻止されながらもなんとか取ることができた。

「あー! もう取られたー。俺の一緒にお風呂に入ろう作戦がー」

 どれだけ一緒に入りたいんだ。

「もう遅いから先に入ってこい。上がる前に着替え置いておく」

「やっぱり一緒に入らない?」

「入らない」

 両頬を膨らませてものすごく不服そうな顔をする。肩を押されて洗面所から出されたかと思うと扉を閉められる。どれだけ僕と入りたかったんだ。

 部屋からギルの着替えと僕の着替えを持って洗面所に置いたら、ギルにも一声掛ける。

 そのあとはギルが出てくるまで暇で、ソファーに座ってテレビを見ていた。この時間はバライティー番組が多くて暇を潰せる。テレビで笑みをこぼすことなんて久しぶりだ。

 けどそんな面白かった番組も終わってしまい、時間外れなニュースが流れ始める。チャンネルを替えることも考えたが、テレビを消してソファーに寝転んで目をつぶった。この間にも勉強はできるが、明日に回そう。ギルがいるのに勉強なんてできない。


 しばらく待ちぼうけを食らっていたら意識がなくなっていて、ギルから頬を触られたときにやっと寝ていたことに気づいた。ギルは置いていた服を身にまとって、髪から垂れる水滴が少し服を濡らしているようだった。ギルに限ってきちんと髪を乾かすように言う必要がない。

「おはよ。お風呂上がったよ」

「……ああ」

「れーくんの寝顔かわいかった」

「……どんな目をしている」

「こんな目」

 起き上がろうとした矢先、大きな綺麗な緑の目と目が合う。むしろ近すぎてそれしか見えない。けど、やっぱりギルの目は本当に綺麗だ。見飽きない。

「そ、そんなに見られたら恥ずかしいじゃん」

 自分からしたことなのはわかっているか。

 ギルを押しのけて洗面所に向かった。ギルはのこのこと付いてきて服を脱いでも、まだそこにいる。

「……れーくんほんとぺったんこだね」

 次第には腹を撫でてくる。

「…………」

 ギルには強制退場してもらって、続きを脱いでいった。が、扉が開く。

「早く出てきてね! 一緒に寝よ!」

 それだけ言って閉めた。なんなんだ。

 それに、一緒に寝るのなんて、ギルが泊まった日には一緒に寝ているじゃないか。

 汗でベタベタになった体を温かいシャワーで流す。

「…………」

 こんなにベタベタになったのも、先輩のせいだ。

 シャンプーで洗い終わった髪を上げて視界を良くする。不意に鏡に見えた顔は、相変わらず醜い。

 顔を洗おうとするが、今日はギルがいる。リンスーをつけよう。

 普段は節約のためにも使わないが、ギルがいるときは使っている。使わなかったらなぜかバレて「今からもう一回入ってリンスーつけるよ」とか言い出すから、ギルがいる日は使っている。

 ……親がいなくなってからはリンスーの意味がわからなくて、なくなり次第使わなくなった。でも、ギルが初めて泊まった中学三年生のときに、「トリートメントとかリンスーは?」と、あるのが当たり前のように聞いてきて、使ってないことを知れば翌日に買わされた。

 結局、ギルが泊まらない日は使わなくなったが。

顔を洗ったあと、黒のボディタオルを取った。つもりが、引っかかって一緒に白のギルボディタオルも取れた。戻して整えた。そして体を洗っていく。

「…………」

 先輩と過ごすうちに、知らない感情を抱いていた。公園の前で会ったときはあんな感情を抱くなんて思ってもなかった。

 ――君は俺の特別だ――

 僕はそんな先輩の言葉に甘えた。

「…………」

 もし、あの感情を恋と言うのなら、きっと僕は先輩に恋をしていた。けどその恋も今日気づいて、今日終わった。

 縁を切るなんて言われた。それに……僕は先輩を好きになってはいけなかった。

 男は女に恋をする。

 世にはそんな風潮がある。僕は先輩が女か男かなんて、そんなのどうでもよかった。ただ、優しくて少しだけ弱くて、でも強い、そんな「先輩」が好きだった。……好きだって、言いたかった……。

 でも、そういう恋に対する風潮が世には広がっているから、先輩はきっと嫌がる。僕は先輩が好き、そんな事実は。

 性別関係なく好きだと言えたなら……よかったのにな。

 もし……もしも、こんな結末が初めから用意されていたなら、出会いたくなかった。こんな感情、知らなくてよかった。……こんなの、望んでない。

「…………」

 恋なんて、初めてだ。

 淡く切ない思いを乗せて小さな溜息を吐いた。


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