二人の夜
貰ったネックレスを指でつまんで、くるくる返して見ていた。そんなことをしていれば、光を反射して目が痛んだ。
「…………」
「れーくん、ずっとそのネックレス触ってるよ
ね。気に入ってるんじゃない?」
べつに気に入っているわけではない。ただ先輩から貰い物をしたという実感がないだけだ。……縁を切るということにも。
「欲しいならやる」
「い、要らないし貰えないよ。これはれーくんが貰ったものだし。それにれーくんが着けてるからかっこいいっていうのもあるんだよ。学校に着けていったら? あはは」
「学校では着けて行けないだろ。それに僕にネックレスは似合わない」
首の後ろへ手を伸ばしてネックレスを掴んで外そうとするが、なにか凹凸があるのがわかるだけでどうやって取るのかわからない。よくよく考えたらネックレスなんて着けたことがないから外し方もわからない。
「ギル、ネックレス付けてたことあったな。これ取ってくれないか」
「あるけど、家に入ってからね」
……意地悪。
住宅街に入って、街灯が少なくなった道を歩いていく。この時間になれば扇風機もなしで過ごせるくらいだ。いつもこのくらいの気温でいいのに。
「……んーいいニオイ」
……確かに右側からカレーのニオイがする。そこの家は今日カレーみたいだ。カレーはおいしいが、からいから甘口じゃないと食べられない。
もうすぐで家に着く。そんななか、ギルのスマホから一本の電話が掛かってきた。スマホを覗くと『お父さん』から。
「もしもしどうしたの? ……え? 俺送ったよ? ……あはは、もーちゃんと見てよね。……うん。だから今れーくんの家にいっ、いるから大丈夫だよ。……うん……うん、言っとく。……うんじゃあね。おやすみ」
「…………」
「今まだ外って言ったら心配するでしょ?」
なにも言ってない。
「お父さんがまたごはん食べに行こーだって。れーくんなに食べたい?」
「……ギルが食べたいところにでも行け」
「ツンデレさんだねー」
なにがだ。
家に着けば、さっそく夕食を食べることにする。と言ってもいくらカップ麺なんてすぐ食べられるものでも、湯がいる。水を入れた鍋に火をかけた。その間にコロッケを電子レンジで温める。
温まったコロッケを食卓に出して、鍋の様子を見に行く。が、まだみたいだ。
待っている間、ギルは食卓椅子に座ってじっと僕のほうを見てくる。目が合えばにっと笑う。
「……暑くないか」
「うん、大丈夫だよ。夜は涼しいからね。これくらいなられーくんとくっついて寝れるね!」
くっつけば熱くなる。勘弁してくれ。
沸騰するまで待つが、脚が疲れて床に座り込んだ。そのとき、首元からチャリとと音が鳴る。そういえばギルに取ってもらうように言っていた。
立ち上がってギルの傍に行く。
「ギル。家に入った。これ取ってくれ」
「あはは、ごはん食べたらね」
さっき家に入ったらと言っていたじゃないか。
首の後ろに手を回すが、やっぱりどう取るかわからない。
……もしかしてどうにかつながりを解くのではなくて頭をくぐらせるのか? この短さだから無理だろうと思っていたが本当は通せるのか? 試しにくぐらそうとするが、案の定通るわけがなかった。それよりもちぎれそうで怖かった。
ギルがこのおかしな行動を見て、くすくすと笑っていた。笑うくらいなら取ってくれたっていいじゃないか。
スーパーの袋から、出していなかった板チョコを取り出して、小さく割って口に入れる。甘いはずなのに、苦い。
隣で僕が苦いと思ったものをギルはおいしそうに食べる。わざわざ僕の板チョコで割ったものを。ギルの分も買ったのに。
湯を入れたカップ麺をギルの前に置いて、橋で蓋を押さえた。僕は向かいに座って出来上がるのを退屈に、頬杖をつく。
ギルはカップ麺を食べられることがそんなに嬉しいのか、ずっとキラキラした眼差しでカップ麺を見て、そして僕を見る。……なんで僕を見るんだ。
僕は月二くらいはカップ麺で食事を済ませることがあるから食べるのが初めてではない。どうしても料理するのが面倒、でも腹が空きすぎるという時に食べる。湯だけでできるが、味は千差万別で意外においしい。
「俺ね、こういうカップ麺って食べる機会ないからちょっと嬉しい。いつもお母さんいないときは下手っぴだけどお父さんが用意してくれるし、どっちもいないときも、お母さんが冷蔵庫に入れて用意してくれてるから。最後いつ食べたかな」
家にいなくとも事前に用意してくれるなんて、本当に良い親だな。本当に……羨ましいくらいだ。
三分経ったあと、手を合わせて食べ始めた。
「んー! ほいひー! へーうんほはへふ?」
「飲み込んでからもう一度聞く」
「んふふ。……れーくんも食べる?」
「食べてほしいならいただこうか」
その言葉に嬉しそうな反応を見せたあと、容器を近づけてくるから麺を少しいただこうとすれば、先にギルの箸が容器を突く。その行動を不思議に見ていたら、笑顔を見せて「はいあーん」と。麺くらい自分で食べさせてくれないか。汁が飛び散る。
そう言っても自分で食べさせてくれないことはわかっていたから、うんと前に出て、ギルの手を握りながら口に入れた。ギルはこれで満足するはず。……おいしいな。
一つ礼を言ってきつねうどんの続きを食べようとするが、ギルがまだなにかしてほしそうに見つめてくる。わけがわからずに無視して突こうとすれば強い力で右手を握られ阻止される。
「れーくん俺にあーんは?」
それが狙いだったか。してやられた。
キラキラとした眼差しを向けられて少し眩しい。……仕方がない。
ギルに容器を近づけて、麺を掴んで開けている口にめがけて突っ込む。下に伸びる麺が暴れて汁が飛び散らないようにしながら無事に食べてくれた。今度こそ満足しただろう。
「ん、んんんんん!」
なにを言っているのかさっぱりわからない。
そんなギルを無視して続きを食べ始めた。




