お別れ
ぼーっと先輩の後ろを付いていた。けど、それもいつかは終わる。階段のあたりでくるりと先輩が体を回した。目が合ったが、僕はさっと逸らす。
「今日はありがとうなぁ。」……それで、今日でお別れだ。君にはすっげぇ感謝してる。けど……そっちのほうが都合いいだろぉ?」
なにが都合いいかなんて、わからない。
「今日で君とは縁を切る。出会ったのはもう忘れろ、な」
「……奇遇ですね。僕も、そう思ってました」
力なく微笑んでみる。
「さすが俺の後輩」
否定……してほしかった。
「……では」
切るのなら、早く切ったほうがいい。期待なんて、しないほうがいいんだ。
階段を下りようとしたが、先輩はそれを止める。
「あっ、まだ行くなって」
「…………」
「君はそんな軽く別れを済ます人間じゃねぇだろ」
「そう、なんじゃないですか」
「……なんか機嫌悪くなってよぉ。プレゼントやるから元気出せって」
プレゼント……? 僕に?
その場で目をつぶれと言われて、静かに目をつぶった。
「ちゃんとつぶってるかぁ? ……よぉし。じゃあ今から渡すこれ、俺がいいと言うまでぜってぇ見るな。わかったかぁ?」
よくわからないが返事をする。
耳元でチャリンと鳴ってゾワゾワッとした。首周りが少し重たくなる。まだ……先輩は期待させる。
そして、
「ふーっ」
「っ……!」
耳に息を吹きかけられた。思わずビクッとして耳を塞ぐ。先輩を見たらたいそう楽しそうに笑っていた。
「ばっ、馬鹿なんですか」
「はははっ! 君のその反応おもしれぇ」
……最後まで馬鹿にする。
笑い終わったら、息を吐いて、顔を上げた。
「まー、もしまた校外で会った時、そんときだけ相手してやら。校内は君のためにも駄目だ」
ごまかすように笑われる。なにが僕のためなんだ。僕はべつにどうだって……。話せるものなら校内でも話したい。
「……学校でも、お話したいです」
「駄目だっつっただろぉ? それに、俺に学校で恋人ができたとき、君かっけぇから簡単に取られちまう」
「……取りませんよ」
「ははっ、取らねぇか。君もいい女作れよ」
女なんて、作らない。
「じゃあ最後に」
そんな言葉、聞きたくない。「最後」なんて……。郊外なら話せると言ったがそんな確証、どこに……。
「俺、君のことすっげぇ気に入ったみたいだわ。初めて会った時から今まで本当にありがとぉな。感謝しきれねぇ。もう一回言うけど、君は俺の特別だ」
言ったあと、体を階段に向けられた。そして、
「じゃあな」
「っ……!」
その言葉の最後に、背中を押された。
手すりを掴もうとするが、届かなくて、
「……った」
階段を転がった。
靴が脱げていて、履いて立ち上がった。服の汚れもはたく。
――今日で君とは縁を切る――
もう、終わったんだな。
「…………」
顔を上げて振り返っても、先輩の姿はもうなかった。
僕だけが、一人でここにいた。




