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早咲きの蓮華は地面に咲いた  作者: 雨夜玲
それを望んだわけではない
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心配する気持ち

 いつもより早く着いて、教室はいつもより生徒が少なかった。真面目に勉強をする奴。読書をする奴。スマホをいじる奴。それくらいしかいない。

 ギルが自分の席に鞄を置いたあと僕の隣に立って、さっきの話の続きをしだす。

「で、いけるでしょ! 絶対暇でしょ! 泊まれるでしょ!」

「明日は部屋の掃除をすると言っている」

「えー、れーくんは掃除しないよー」

 確かに面倒臭がりだが掃除はする。どこの奴と勘違いをしている。

「どうしてそこまでショッピングモールに行きたがる」

「れーくんの新しい服買いに行こうとおも」

「行かない。買うなら自分で買う」

「だって、れーくんのクローゼット長袖しかないんだもん。これからもっと暑くなるよ?」

 毎年これで過ごしていたのに、なぜ今年は特に気にしてくるんだ。確かに最近暑くなってきているがだな。

「もっと袖まくって半袖に……」

 そう言うギル自身もまだ長袖シャツなのになんだ、と思いながら腕を引っ張りだして袖をさらにまくられる。が、自然と肘あたりで止まった。

「あ、新藤くん?」

 ギル以外に名前を呼ばれる相手なんていたか、と思いながら呼ばれたほうに目を向ければ、

「……誰だ」

 今教室に入ったらしい奴が僕の席の近くに来た。見覚えはあるんだが。

「もーまた忘れてー。垣谷豊くん。総務さんだよ。なんでそんなに覚えられないの?」

 悪かったな。覚えられなくて。だが、覚えたところでどうせ五年後には忘れている。

「……いたな」

「ひど。憶えてあげてよ。おはよー総務さん」

「おはよ、英川くん。新藤くんも」

「……ああ。それで、なんの用だ」

「うん。ずっと休んでたから心配で」

 心配か。心配されるほど総務と仲を深めた憶えは全くないんだが。クラスメートなら普通するものなのか? 今までギル以外と関わらないようにしていたから普通がなにかわからない。

「心配ありがとう。けど僕はよく体調を崩すからあまり心配する必要はない」

「……れーくんそれ逆じゃない? よく崩すから心配するんじゃん」

「…………」

 考え方は人それぞれだ。

「新藤くんってよく体調崩すんだね。体調管理には気をつけてね」

「ほんとだよ。俺からも気をつけてよね」

「……気が向いたら」

「もーそうやってー」

「んふふ。あ、僕職員室に用があるんだった。じゃあ僕はこれで」

「うん。またね」

 総務がこちらに顔を向けなくなったら、振っていたギルの手が下ろされ、教室から出たら話し相手が僕に戻ってくる。

「で、明日! 行こうよ!」

 総務との会話を挟んだからもう忘れているだろうと思っていたのに、まだその話の続きをするのか。

「……足疲れてきたな……。椅子借りよ」

 僕の前の席の椅子を勝手に借りて引きだす。そういえば、進級したばかりはこんなこともできていなかったな。成長したものだ。

「いっ……」

「…………」

 ギルが座るまでは休憩時間だと思って、口を動かすのを休憩していれば、突然持っていた椅子から手を離す。どうやら椅子を引きだしたときに、僕の机と椅子に指を挟んだらしい。

「大丈夫か」

「うん……ちょっとヒリヒリするけど大丈夫だよ、あはは」

 ひらひらと揺らす右手の人差し指が赤く染まるのは、色白の肌にはよく目立つ。痛そうだな。

「冷やしておいたほうがいいんじゃないか」

「ううん、大丈夫だよ。全然痛くないし」

 今のこの気持ちがいつもギルが僕に対して心配する気持ちなんだろう。同時にどうにかしたいという思いがある。

「保健室に行こう。時間はまだある」

「え、え、ちょっと」

 返事を聞く前に左腕を引いて無理やり保健室に向かった。それでも引かれるがままに付いてきてくれる。

 僕が保健室に連れ出されるのはよくあることだが、ギルを連れ出すなんてことはあまりない。去年、熱があるのに無理して体育を受けていたときに連れ出したくらいだ。あのときは体育になって動くたびにふらつきを見せていたから気づけたが、体育がなかったら気づけなかった。

 歳が上がってからのギルは隠すのがうまくなってきているからな。僕も気づける能力を上げなければ。

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