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早咲きの蓮華は地面に咲いた  作者: 雨夜玲
それを望んだわけではない
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命令

 数日後。

 スマホのアラームがうるさく鳴る。頭が動いていないからか、意味もなくスマホを投げ飛ばした。……なにをしているんだ。

 体を起こしてスマホを取りに行く。幸いフィルムに傷はついていなかった。普段はこんなことしないんだが……。

 寝起きの頭によく響くアラームを消したら、一度背伸びをした。起きたときに酷い頭痛も体に熱を帯びた感じもしないなんて、これほども楽なのか。

 体調はいい。軽い頭痛がするくらい。治ったみたいだ。今日から学校に行こう。これ以上授業の(おく)れを取りたくないのもある。

 蒸し暑いなか、洗面所で水に当たるのは気持ちいい。だからといって冷水を浴びたいとは思わない。ぬるいお湯で洗顔をした。

 白米は休んだときように炊かなかったから、インフルエンザにかかる前に買った食パンを食べる。もちろん、パン類はあんまり長く保たない。消費期限切れだ。けど僕の経験上、数日なら食べれる。あとになって腹を壊すなんてこともなかった。

 粗雑な朝食後、部屋に戻って久しぶりの制服に腕を通す。最近暑くなってきたから少し腕もまくる。外で半袖は着ないが、少しまくることはできる。

 準備ができたら椅子に座って背もたれに体を預ける。

 最近急に暑くなってきて、日中に冷房をつけるか迷うくらいだ。ギルや先輩といった来客がいる時はつけるが、僕一人だともったいなく感じてためらってしまう。

 だからといって扇風機に当たり続ければ、血行不良を起こすから、当たりっぱなしもよくない。電気代的にも。首振り機能があればよかったのだが、昨日か一昨日だったかに突然首を振ってくれなくなった。

 扇風機を味方に付けて暑さをしのぎながら、時間まで椅子を足で左右に揺らして待っていた。

 昨日ギルに明日から行けるようになるかもしれないと言っていたからか、いつもより早い時間にギルが家にやってきてインターホンを鳴らした。

 それを合図に扇風機と電気をきちんと消して玄関から顔を覗かせた。

「れーくんおはよっ!」

 僕が制服姿で出たことが相当嬉しかったのか、いつもより元気な挨拶をされて抱きついてくる。ギルの思いにも同情してやって引き剥がそうとはせず、僕は至って普通に返した。

「やっと一緒に学校行けるね! 俺嬉しい。えへへ」

 久しぶりにギルと並んで学校へ向かった。

「一週間ぶりちょっとくらいかな」

「もう長期休暇じゃないのに体調を崩すのはもう勘弁だ。授業に追いつけなくなる」

「それはれーくんがきちんと健康管理に気をつけてたら体調崩さないから。っていうか、学校に行けるって、行きたいの? 俺はまあ、友だちと話せるからいいけど、勉強はしたくないよ。なによりれーくんがいたらそれだけでいいんだけどね」

 家に出て五分もしていないのに、額に、こめかみに汗がにじむ。手の甲で拭った。

 数日家から出ないうちにずいぶんと暑くなったものだ。まだまだ夏は来なくていいのに。汗をかくのは不快で嫌だ。

「れーくんべつに勉強が好きってわけじゃないでしょ? なんで行きたいって思うの? れーくんなんて俺以外の友だちいないし」

「作ろうと思わないだけだ。……学校は勉強をしに行く場所であって友人と戯れる場所ではない。勉強が定着せずとも、高卒認定を得て将来に活かすんだ。最終学歴で給料も変わるからな」

「……なんか、すっごい現実的なこと言われて今異世界にいる感じするんだけど。……れーくんって考えお堅いからなぁ」

 知っている限りの事実を話しただけで異世界に飛ばされてしまったのか。確かにそういった現実的なことに向き合うことを楽しいと思える人間はあまりいないだろうが。

「れーくんってたまに昭和のおじさんみたいに考えお硬い時あるよね」

「昭和のおじさんに失礼だ」

「まあまあ。でもそれくらいれーくんお硬いよ」

 本当に失礼だ。

「俺のお父さんと喋る時も()()()()って喋るし」

「敬意という言葉は知ってるか」

「それくらい知ってるよー。警察の『警』に意欲の『意』でしょ? 馬鹿にしすぎね」

「…………」

 ギルのためにも黙っておいてやろう。

「でもさ、昔は俺のお父さんにもタメ口で話してたじゃん。なんで敬語になったの?」

 もう一度言う。敬意という言葉は知っているか。

「昔のれーくんはお父さんと喋るとき俺と同じ感じに喋ってたのに。……でもそう思ったらすごい喋り方変わったよね。昔のれーくんは今と違ってもっと命令口調で尖ってて、短い言葉で話してたイメージある」

「……さあな」

 命令口調……。直したいとは思っているんだ。

 短い言葉は、その頃には喋ることすらも面倒臭く思っていた。単に人と喋りたくなかったのもある。

「それに昔と比べてれーくんいっぱい笑うようになったよね。今もたまーにしか笑わないけど、昔はもっと笑ってなかったよ。でも俺昔のれーくんが笑ってくれた時はほんとに嬉しかったなー」

 憶えがある。ギルの間抜け面に笑った憶えが。

 その時ギルは僕を、おかしな生物を見るような目をしながら嬉しそうに笑っていた。

「今も昔も無表情だけど、今のほうがなんだか楽そう。昔はなにも楽しくないって感じだったけど、今はただぼーっとしてるって感じの顔してる。……あ、れーくん止まって!」

 急なもので言われてから数歩歩いたあと止まる。忘れ物でも気づいたのかと思ったが違うみたいだ。僕の隣に来たらなにやら両の人差し指を立てて、それを僕の口元に当てる。

「なにをしている」

「これで、こうすれば……」

 置いた人差し指は無理やりに口角を上げられる。

「あはは、人の手で笑わせるのはなんかビミョー」

「……行くぞ」

「あはは、はーい」

 無理やり笑わせるな。


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