第8話「機械化心臓」
「暖房抜きで完成なのかよ!溶けるからわかってたけどね!」ルーナ・シャインナイツの絶叫はともかくとして、完成の遅れていたハボクックが白波を立て始めていた。航行しているのだ。「建造中にあれほど空爆されていて無事に完成するって不思議ね。無事と言っていいのかわかんないけど」式典にはいつもの妨害でB-36ピースメーカーが水平爆撃をする中、無事とは何かを考えさせながらもの氷山空母ハボクックは完成して北海へと動き始めていた。艦載機の充足率はたったの五〇パーセント程度だが、それでも五〇〇機近い戦闘機に大型爆撃機を載せた空母という自走要塞は荘厳と言えば荘厳であった。
旧式の40mmも新型に換装され、ポップペップバーンとシャインナイツの担当も変わった。90mm級の大型対空砲だ。側面に立てかけられた大型ドラムマガジンに大量の砲弾が詰まっていて、毎分あたりの発射レートが瞬間的にはであるが、少し遅い機関砲並みにある対空砲 の化け物だ。気長な弾幕射撃に命中を期待させていられない、ということを意味していた。「VT信管、時限信管の調整がいらないて不思議な感じ」「したことないでしょ、ポップペップバーン」「訓練時代には。あの歯医者の道具みたいなのでキリキリ回してたよ」
自然風とは違う、ハボクックが引く強い風は露天では骨まで凍りかけた。寒い、寒い、と言われていたハボクックも航海に出ればさらに寒くなる。露天の乗員は顔が凍らないように、内側に毛皮を貼ったマスクをつけている。仮面舞踏会のような、しかし華やかさはない無愛想が集まり、退屈に、しかし抜かりなく気を張っていた。
ポップペップバーンは自分の髪の毛や産毛が、寒さ以外で逆立つのを感じた。要塞並みに巨大な氷山空母ハボクックは、大型機を運用できるほどの巨艦だが、既にその役目は長距離飛行可能な爆撃機の登場で薄まりつつある。では何故に巨大のままなのか。大きくなければ、搭載できない装備を搭載する為だ。氷に変わった海のカケラが舞うが、それらは淡く発光しては消えてしまう。ハボクックのヴォイドシールドが、近く寄るものを消滅させているからだ。エネルギーによる装甲だ。鉄板を厚く重ねる装甲とは、また違う兵器である。完成されたハボクックを破壊できる兵器は、今のところ存在してはいない。だがそんなヴォイドシールドさえも、極寒からは守ってくれないようだ。今はただただ、悲しさにくれている人間が多かった。「ペンギンでもペットに飼わない?」




