第0話「氷山が動いた」
氷山を連結した基地ーーではない。凍えるような環境で、鋲の付いた靴が滑らないよう氷に食い込んだ。“彼女”が立つのは氷山空母ハボクックだ。……だが今はただの氷山だ。氷山のようなものでさえない、氷山そのものなのだ。「寒い、寒すぎる!」というのは震えるルーナ・シャインナイツのいつもの口癖だ。「シャインナイツ、うるさい……」「でもポップペップバーン!こんれは寒すぎるって!!」寒い、寒い、寒いとルーナは防寒着でスノーマンのような姿になっていた。寒いのだ。
「氷山の住人なんだから諦めなって。あとシャインナイツはそんなに乳牛みたいに脂肪があってなんで寒いのさ」「ポップペップバーンは貧乳だからすぐ温まれるんだよー!」「ぶちますよ?先輩」「あんぎゃー!」とおよそ女の子らしくないシャインナイツの絶叫が氷山を揺らした。40mm八連装砲“ポンポン砲”の銃座付きの二人は幸せシートに終日座っては警戒についていた。いつ何時の襲撃にも対応する為なのだが、別にいなくても構わない。ただハボクック艦内は氷漬け冷凍庫なので、破片除けのシールドが風除けになってしかもストーブを持ち込める銃座のほうが温かいのだ。自動装填装置に射撃レーダーまで付いた大型の銃座だ。自動装填に遺跡の技術を流用している、40mm機関砲弾を装填するのはある種の棘皮類である有機部品の人工腕だ。ポップペップバーンとシャインナイツ以外に、生物のようなものがポンポン砲にはいた。シャインナイツ曰く「タコちゃん!」である。
だが所詮は防御兵器だ。いつも40mmについているわけではなく、183や90mmといった口径の大きな砲も兼任していた。自動化されていて、要員がいなくても問題ないが、もしもに備えた保険程度が、対空火器にあてがわれた人間の役割だ。主役ではないあったら便利程度の付属品、それがポップペップバーンたちなのだ。
付属品、いてもいなくても良い。いなくても良いなら、と考えるポップペップバーンのやる気は基本的に低い。そんなポップペップバーンとの対比だと、シャインナイツはもう少し元気で活発で一応、先輩だ。おっぱいもデカイ。ポップペップバーンは闇の魔術に、他人のおっぱいを自分のものにするものがないかと調べたことも過去にはあったが、残念ながら今のところはまだ見つかっていない。もしポップペップバーンが闇の魔術を発見あるいは開発したなら、その対象は十中八九シャインナイツで間違いなかった。
空に雲はない。だが北極圏は晴れていてなお、凍えるほどに寒かった。過去、幾度となく探検隊を氷原に飲み込んできた!悪魔の土地だ。そんな土地でさえも、勢力圏に取り込んでしまおうとする人間の底力にポップペップバーンは戦慄すると同時に自分は来たくはなかった、とも考えていた。ここはーー寒すぎた。
「ポップペップバーン、寒いね」「甲板で焚き火てどうなの?」「氷山空母なんだから溶けないって。ちょっとだけ」氷山の上で燃やす焚火に、シャインナイツは揺らめく炎に手をかざした。掌が炙られ、熱さで痺れるような温もりが全身を駆け巡る。




