第9話「死を捕まえた日」
不時着した巨人機の両翼には、ジェット戦闘機が繋がったままだった。飛行船タイプの空母ではなく、大型爆撃機の翼端に一機ずつ連結して“空中空母擬き”としていたのだ。最大の脅威が落ちた。ーー落とした。しかしその感慨は、ヒイロ・オールガードの心を何も嬉しくはさせなかった。“このことに関しては”、だ。
「えっと……失礼します?」「マキナ!こっち、こっち!こちらが私を助けてくれた人たちだよ!」遺跡そのものだった山は、静かなままだ。あの事件以来、無差別に殺人光線をばら撒くなんてことは少なくとも、止まっていた。過剰な戦闘に反応したのだろう、という学者の意見だが詳しいことは不明だ。ただ……メカリスもノヴォハザールも戦闘を中断した。クーデターは遺跡の管轄を得るためにあった、遺跡を独占できないのなら、もうクーデターなど興味がないのだ。ヒイロにとってはどうでもよくはないが、どうでもよい話だ。
家の男衆も帰ってきた。……戦っていたのだ。全員が、しかも五体満足で、とはいかなかった。だが明るい表情だ。戦地帰りに相応しい。めそめそと泣いていたは男が廃る!と新しい大黒柱は言っていた。変わった考え方だな、とヒイロは感じた。三文小説では大抵、戦場帰りは必ず悲惨な目に合わせられるのだ。ここは、誰も受け入れてくれない土地というわけではなさそうだ。それでも「夕方にはメイコンⅱーー家に帰らなくちゃいけないんだ。あんまり長居できないことは許して」「あら、随分と急ぎなのね……」奥さんが残念そうに言った。日はもう傾き始めていて、数時間となく夕陽で染まるだろう。「任務がまだあるから」
奥さんは「そう」とだけ言って「じゃ、今のうちにモリモリ食べないとね!」テーブルの上には少し早い、豪華なディナーの数々が並んだ。「わぁ!いただきます!ほら、マキナも!」「い、いただきます」ヒイロは元気が足りないなぁ、と思いつつもディナーの取り分けに入った。現役食べ盛りの男衆との大食い競争で、良い意味で食べっぷりを恐れられるというハプニングがあったのは予断だ。マキナも家族と打ち解けた頃には、メイコンⅱへ帰らなければいけない時間だった。陽が傾き、長い山の影が街にかかる。ヒイロとマキナは手厚い見送りと、ちょっとしたお土産を手に帰路についた。ヒイロの心の中ではどこか「もう会うことはないんだろうね」という気持ちがあった。
「良い人たちだね」帰り道でマキナはそう言った。「うん」夕焼けの、少し寒くなった時間に長い影が一足早い夜を伸ばした。太陽が沈む。天の梯子にも巨大な夜ができていた。




