第5話「叛乱」
街が燃えていた。クーデターが起こり、それに対するカウンタークーデターが起こった。メカリスにつくか、ノヴォハザールにつくか、独自路線を貫くか、小国の命運を分ける決断に軍事力が使われた。「ノヴォハザール軍も動いた」メカリスとしてはこのまま、ノヴォハザール軍の衛星国の誕生を見守る為にメイコンⅱを派遣しているわけではない。……出撃が命令された、実戦だ。「ヒイロさん、燃料と弾薬は目一杯食わせました。ですが急だったもので、サイドワインダーは一発だけです」「数が少ないからね。仕方ない……ありがとう」「ご武運を」
ヒイロは、炎と煙にまかれた空が嫌いだ。それはーー美しくない。ジェットは好きだが、ちょっと速すぎる。理想は200km/hで向日葵畑の青空が、彼女の理想だ。速く、高く、地上を置いていくだけが空ではない、ヒイロは地上と共にある空が好きだった。空が炎である必要がどこにある。クーデターは予測できていた。政権にまで、メカリスとノヴォハザールの手は入っていた。でなければ最新の軍事力を展開はしない。燃えるべくして、空は燃えた。メカリスの義勇軍としてヒイロは参戦した。参戦するまで義勇軍だったなんて知らなかった。穴空き山付近で空中戦となった。敵はーーノヴォハザール義勇軍だ。
「ジェットだぞ!」ヒイロの後方をとったLa-7を強引に速度で千切った。La-7の機首から吐き出された20mmの曳光弾が白煙を曳き流星群のように飛んでくるーーだがF9Fの外板を砕くことはなく、引き離す。ヒイロを狙っていたLa-7は追跡を諦めて他の機体を狙う為に機首を変えた。それを見届けたヒイロは急速に機動を捻じ曲げ、背中を見せたLa-7を狙う。水平飛行を避けつつ、少し失った高度からジェットの大馬力で急上昇を仕掛けた。下方から12.7mmの弾幕を叩き込み、La-7はエンジンに小爆発を起こし、炎と黒煙を引きながら落ちていく。「……」見渡せば敵か味方か。白い飛行機雲から炎と焦げた色が混じりあっていた。混じり合った雲は急速に、重力に引かれるように大きく湾曲しては地上へとどこまでも伸びた……落ちていく。
『ヒイロ、帰投して』たったそれだけの言葉でヒイロはメイコンⅱに帰った。やるせない気持ちだけが空転していて、彼女の心に澱みを溜めさせた。「疲れてるじゃん」とマキナにヒイロはメイコンⅱのささやかなバラスト兼娯楽のピアノとバーのあるラウンジに誘われた。「酒は飲んじゃ駄目だよ、ヒーロー。血管が開いてるからすぐに酔う」「わかってる。あと、ヒーローやめて」「じゃ、エースだね。スコアを更新しなきゃ」マキナはサーバーから絞ったジュースを注いだカップを用意していた。オレンジ味だ。臭いつきの冷却水に粉末を混ぜたものとは違う、ほのかに酸っぱい、口の中を突っつくような、本物の味の刺激が心地よかった。




