第4話「サーカスの時間」
遊覧飛行ーーと気楽に言われた。都市近郊で編隊単位での曲芸をやるのだ。サーカスだ。民衆に受けるし、何よりも高い練度を証明できる『平和的な手段』だった。ヒイロは編隊の三番機だ。鳥の群れのように行儀良く見栄えを地上に移しながら、都市などの上空を飛んだ。『紳士淑女の諸君、ヒーローになろうか』編隊長がそう言っていた。だがマキナの話ではあんまり良い話ではなかった。単独飛行に自粛していたのに、今度は示威を前面に押し出したからだ。噂では、バックの力をアピールする為であり、地上の決断を後押しする為であり、銃剣が動くかもしれない、とヒイロは聞いていた。
「ノヴォハザールの編隊が来た」『ヒイロ、絶対に交戦の口実にならないでね』「わかってますよと」彼女たちのF9Fパンサーには“実弾”が装填されていた。いつものことだが、おそらくはノヴォハザール側の戦闘機にもだ。お互いに、できれば空中戦とはしたくないだろう、とヒイロは考えていた。両軍ともにこの空域でエアショーの編隊を組むことは通告済みだ。戦いたくないーーと考えていながら、戦える備えをしておくことは矛盾しない。曲芸が始まった。お馴染みの丸いループ、スモークでの絵描き、そんな芸をした。天地がひっくり返る中で重力を振り切っている、そんな気がした。重力に、地上に縛られない自由がそこにあった。「相手もそんな風に空を感じているのかな?」ヒイロの目は、どれも同じ色、同じ形の戦闘機を見つめた。
「始めるぞ」ヒイロは気合を入れなおした。ここで事故を起こせば末代までに恥だ。密集編隊を維持したまま、翼が触れ合いそうな位置を維持して様々な『スタントショー』を繰り広げた。地上から見ているぶんには生きた心地がしないだろう、空中衝突をしたようなハラハラドキドキだろう。だがヒイロ、そして編隊のF9Fは群れを作る小魚のように正確に、そして一つの生き物のように呼吸を合わせて機動した。加速度が体を締め上げるが、ヒイロにとっては軽いランニングのようなものだ。潰れかけた肺を膨らませて酸素を取り込ませた。呼吸が一々止まっていてはミスしてしまう。
ノヴォハザールのサーカスも始まった。城塞都市の上空で、メカリスとノヴォハザール共同のサーカスだ。派手にそしてかっこよく飛んだ。間抜けだとか、見苦しいとかの飛びをヒイロは見せるつもりはなかった。飛ぶというのは、美しく、そして何より夢のあるカッコいいものであって欲しいからだ。人間は歩くことができる、泳ぐこともできる。だけど自力では飛べない。機械に頼らなければ飛べない。飛行機は人類の夢の答えだ。だからこそ「夢を見させられないとね!」ヒイロは純粋な気持ちで、城塞都市の中で見ているであろう、そんな誰かを見ていた。




