第2話「天使のもつ鎌」
出撃ーー何度も繰り返した訓練と変わらない、『投擲』がヒイロ・オールガードと愛機のF9Fパンサーを大きく揺らした。メイコンⅱとF9Fを繋ぐ“へその緒”が外れた瞬間……浮遊感……胃袋が喉まで迫り上がる慣れた不快感を飲み込み、降下速度で、流れる風に乗り飛び上がる。メイコンⅱから切り離されてから、翼はすぐに風の層を掴んだ。「空対空ロケット、サイドワインダー、ね」ヒイロの愛機の翼は今、空を飛ぶことという純粋さだけではない。両翼に一発ずつ、最新の空対空誘導ロケット・サイドワインダーが搭載されていた。熱追尾式で、様々な制限も多いが、条件次第では機関砲よりも正確に、そして一撃必殺になる兵器だ。「必殺技ーーてのもカッコいいか」煌めく翼にピカピカのシーカーが目を丸くするサイドワインダーを搭載してヒイロとF9Fは飛んだ。がらがら蛇の目は牙を向ける相手に飢えている、そんな気がした。兵器は戦いを求める。
「楽しい遊覧飛行だと思って気楽に行こう」しかしヒイロの空に侵入してくるーー未確認機、速い、F9Fのレーダーが捕まえたのは時速八〇〇キロメートル、ジェットかプロペラか判断に迷う速さだ。ヒイロは未確認機を目視で確認、乱れのない色の空に銀翼が反射する。卵に翼が付けられたような小柄な機体だ。ヒイロはそれを初めて見たが、知ってはいた。ーーMig-15、最強の一角を占めているジェット戦闘機だ。最強が、ヒイロの隣にMig-15は並んだ。ミグの機首にはジョーカーが描かれている。
「たぶん、良い腕。エースだ」天の梯子、山を背景にMig-15は飛んでいた。塗装代もケチったような剥き出しの金属光沢が際立っていた。「……」Mig-15はヒイロが手を伸ばせば届きそうな高度を飛んでいた。コクピットに座るパイロットの顔が見えた。当たり前だが……それは人間だ。対Gスーツと与圧マスクのせいで顔を見ることはできなかった。だがこのパイロットが、チラリとヒイロを見ているのはわかった。ヒイロはこのパイロットに敬礼した。同じ空を飛んでいるという、ただそれだけで、国も飛行機も違う、男か女かもわからない相手に奇妙なことにも同族意識があったからだ。Mig-15のパイロットも敬礼を返してくれた。ヒイロは、F9Fの腹を見せるように、隙だらけで翼を翻すとMig-15もまた同じように去っていった。
ヒイロは少し、気分が高まりながら「かっこいいね、今のパイロットは、なんというか、パイロット、て感じだった」だがヒイロの興奮はよそに、無線の先の管制官は少々の冗談と困惑しか返さなかった。




