第0話「スタンド・バイ・ヒーロー」
F9Fパンサーがジェットの高圧ガスを噴きながら飛ぶ。ヒイロ・オールシールドはそんなF9Fを慎重に飛ばす。目の前には巨大な雲……いや、『巨大な人工物』が飛んでいた。ーー空中空母メイコンⅱ。かつては複葉機を搭載し、失敗したそれが蘇りより大きく、より巨大な空中空母として空を支配していた。 失敗作であった筈のその発想は今、遺跡という未知のテクノロジーを受けて完成された。空中空母からは収容の為の機械が降ろされ、パンサーを迎えようとしていた。ヒイロは慎重にスロットルを調整しながら、ほとんどをただの勘で、機械制御よりも遥かに精密な機動でパンサーを導く。ピッチの僅かな揺れ、不規則である筈の突風や気流の乱れさえも規則に組み込み、彼女は危なげなく空中収容のガイドにF9Fを滑らせ、メイコンⅱの腹の中へと導かれた。
「待ってたぞ、ヒーロー」「マキナ!?この魔女、生きていたのか!」収容されたパンサーのコクピットから飛び出したヒイロを待っていたのは“ウィッチ”マキナだ。古い知り合い。「ヒーローて呼ぶのやめて!昔からからかわれてきたんだ、好きじゃない」歓喜がヒイロにマキナを抱き締めさせた。死んだと思っていた、まさか生きて会えるとは思わなかった。「色々あってね」気怠げな『変わらない声』でマキナはヒイロを剥がした。ウィッチは少し照れていた。
「メイコンⅱの心地はどうだ?良い船だろ」とマキナは胸を張った。「子供の頃の夢だよ、空飛ぶ船なんて空想雑誌の絵でしか見れないと思ってた。まさか今、乗れるなんて思わなかった」「正確には、先代のメイコンが一応、形になってたんだけどねぇ。でも戦力にできるという意味では、このメイコンⅱが一番だ」「随分と自慢気じゃないか」「勿論!これの建造には私も関わってるからね」ふふん、とマキナは胸を張って「ーーとは言っても直接、線を引いたりはしてないけど」
「地上があんなに遠い」「そりゃあヒイロ、空中空母だからな」「飛行船から見下ろしてるみたい」「ほぼ飛行船と言えば飛行船だからね」「なんか凄い!」「安心してくれ、私はヒイロに凄い感想は期待していなかったから」「言葉じゃ難しいけど、でも凄いよ。それはすっごくわかる」「ふーん。でもね、ヒイロ、凄いって言葉はあの『天の梯子』にこそ言われるべきだと思うよ」「天の梯子?」マキナが空の一角を指差した。巨大な穴が貫通した不思議な山だ。穴は尾根の一部も破断させていて、山を異様な形に見せた。だが何よりも標高が高い、高すぎた。「一三,〇〇〇メートル、推定でね。プロペラで登山するにも難儀する高度だよ」「ジェットなら行けるよ」「科学の勝利に乾杯したいね」
ヒイロは、天の梯子とマキナが呼んだ山に目を奪われていた。霊峰なのだと言われればそのまま鵜呑みにしそうだ。それほど彼女の心には不思議で満ちていた。「国では、あれは遺跡なんじゃないかって話だよ」「遺跡て、バケモンの住む遺跡?」「ヒイロの考えてるとおりのだよ」「ふーん」とヒイロは遺跡には興味がある湧かない返しをした。「そんなことより空中空母てわくわくするよ。ジェットに変わったり、車がなんでも運べるようになったり、船が沢山運べるようになったり便利な世の中が急にやってきたね!夢がある」




