第8話「空は小さい」
覗き込んだスコープを流れるレーダーの波長がまた跳ねた。電波が敵機に反射した反応だ。世界は広いのに、今まさにこの一角に、この瞬間に全てが集中している、エミーリアはそんな気がした。熾烈な空襲の中でも後方から命懸けで飛び込んでくる装甲補給車がラーテⅤの昇降口から飛び込んできた。消耗した武器弾薬を満載に、装甲にいくつもの貫通させた血みどろの状態でだ。それでも、とエミーリアは思う「今は犠牲を強いるときなのだ」と飲み込んだ。もしラーテⅤが逃げれば、海峡突破の支援に大きな影響を影響を与えてしまう。それは遺跡技術という、列強が列強である為の絶対的な鍵の一つを失うことを意味していて、母国の滅亡の可能性を強めるものだ。なにが海峡を渡っているのか、エミーリアは知らない。だが……信じていた。
「輸送船団離脱までの時間は!」「あと二〇分。Uボート部隊が足止め中、メカリス巡洋艦部隊との間合いは開いているみたい」「聞いたな!?総員、踏ん張るんじゃ!」ヤーボの編隊は、立ち退かせられた。だが対砲撃戦は続いている。それでいい、とエミーリアは考えた。そして恐らくは、ドーラもだ。敵艦の火力を引きつければ、それだけ輸送船団を狙う砲弾の密度が減り、生存のは確率が上昇する。問題があるとすれば「どこまで持ち堪えられるかしら」だった。鋭い衝撃がラーテⅤを襲う。203mmの至近弾だ。巨体の割には装甲の薄いラーテⅤが悲鳴をあげた。「損害報告じゃ!」ドーラの鋭い指示が飛び、『問題なし』が返ってきた。敵の姿も見えず、何に対して撃っているのかさえもわからない戦いだが、誰もが命をかけて身を投じていた。ヤーボは退かしたが、観測機を守る為の制空戦はいまだに継続中だ。低速の観測機を守ろうと、最新のジェット戦闘機同士が死闘を舞った。だが主役はーー『彼女たちではない』のだ。
「直撃弾を喰らわなければ余裕じゃの」「ドーラは肝っ玉があるわよね。私には無理よ」「なぁに、それが良い、良いことじゃろ?」にやり、とドーラが笑い「そら次が来た!」衝撃、そしてラーテⅤの巨体が傾いた。砲弾が貪った土に落ちたのか?急な傾きに襲われ、不用心だった者たちが転んだ。ドーラは、足の力だけで不動だ。ラーテⅤの足が止まった。それは奇妙な静寂だった。エミーリアの中で突然、全ての音が消えた。至近弾で耳が一時的に麻痺したわけではなかった。それとは違う、違うのだ。引き伸ばされた時間の中で、『何かが起きる』のだと未来からの逆風のようなものを感じた。咄嗟にだった。彼女は自分が被る鉄兜を確認していた。何が起こっても大丈夫なように、何があっても後悔しない為に。「ドーラ!!」
「エンジンに直撃弾!駄目だ、動かない!」今までになかった衝撃がエミーリアを襲った。死神に背中を蹴りつけられたような感覚だ。エンジンに直撃弾、それは遺跡由来の過ぎた技術が破損したということだ。規格外のエネルギーを生み出すものが損傷した場合、そのエネルギーはどこにいくのか?沸騰した鍋に蓋をすれば圧力は急激に高まるものだ。「エンジン区画を緊急封印、壊してでも止めて!」瞬間、ラーテⅤの半分を吹き飛ばす大爆発が起きた。




