第3話「月光の虹」
野営の食事当番が四苦八苦しているのを見て、それを見ていた全員が手際の悪さに苦笑していた。陸上戦艦ラーテⅤは、その名の戦艦に近い大所帯を抱える車両だ。所帯じみた、ではなくそのものであるということをエミーリアは知っていた。ドーラを“母”とする一家だ。だが家長は、子供たちの安心を勝ち取らなければいけない。安心とは、頼れるということだ。「お前さん、きょうは頑張っとたの」「はっ!ありがとうございます、ドーラ車長!」ドーラは、部下の顔を覚えている、あるいは覚える為によく褒める。同じくらいに叱りもするが、それでも厳しいだけではなかった。エミーリアの見るドーラとは、そんな女だ。荒々しいようで、繊細、なように部下との交流を大切にしていた。ドーラが言うに、命をかけさせる為の下準備だ。実戦では必ず非情な行為を強要することになる。その時の為に、命をかけさせる為だ。
「後方に送る者の穴埋めは難しそうじゃの」「……えぇ」「負傷した輩には悪いが気にしておられまい。艦隊は今、忙しいからの」「人と物の移動、消費を度外視してる。狭い海峡を通したい輸送船団には余程の物が積み込まれている、と信じましょう」「陸も大変じゃが、空もじゃろ」「最精鋭のジェット航空部隊に、空軍管轄のV1を撃ちまくっているとは聞いているわね」「充分じゃ。我々は一人ではない、そうじゃろ?」エミーリアは意味深に笑った。どちらの意味でもとれるような、複雑な笑いだ。「……そうね」「な、なんじゃー!?」「なんでもないわ。ただ、そうね、と思っただけ」「待て、ちょっと待てエミーリア!その笑みにはどんな意味があるんじゃー!?」
ロゼットが籠の中で眠そうに欠伸を一つ開けた。ロゼットはフクロウだ。寂しい夜には頼もしい話し相手だった。それはエミーリアに限った話をではなかった。ラーテⅤの夜勤はロゼットとの交流も任務のうちだ。ペットのも相棒は気持ちを安らげる稀有の能力で任務についていた。「ロゼットに餌のネズミでも食わせるかの」「やめて!?ロゼットに得体の知れないものを食べさせないでね!」「なんじゃー、フクロウじゃろ?フクロウは野ネズミを食うもんじゃろ」「この子にはそんなものを食べさせるのは許しませんからね」「せっかく食料庫で仕留めてきたのに……」ドーラは残念そうに肩を落としたが、エミーリアは断固拒否した。ロゼットの入る籠の前に立ち、ドーラを近づけさせない。
「ネズミはともかく、ラーテⅤの心臓はまた不調らしいわよ。機関長が予備部品の申請を大量に出しているわ」「遺跡由来の技術の塊みたいなところがあるからの、陸上戦艦というのは」遺跡ーー未知の文明の遺産がなければ、陸上戦艦だなんて荒唐無稽の夢想でしかなかったはずだ。夢が現実になっているということは、夢の何かがあったというわけだ。ラーテはその心臓だけでなく、ベアリングの一個にまで遺跡由来技術を取り入れていた。無敵の超兵器というわけではないが、巨重兵器が単独でも戦えるのはひとえに遺跡の技術を多く採用したからだ。ただ、その『対価』は今も払っていた。「封印は必要か?」「そこまではまだ。ただ、防護服の侵食がやはり激しいみたい」「遺跡の動力炉を使ったエンジンじゃから、とは難しいところか」ラーテⅤは頼れる力を持っている。だがそれが信用できるかは別の問題だ。エミーリアは、ラーテⅤが得体の知れない獣に見えた。




