表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

第2話「捥がれた翼」

青を背景に黒点が動いた。ーー敵機だ。ラーテⅤ型は巨重だ。森の木の葉のように隠れて隠れられるものではない。虫の群れのようにそれは、遠回しに旋回しながら探りをいれていた。ドーラは当然「対空防護射撃に入られよ」と指示した。ドーラは略帽を締め直す。「目敏い連中じゃの」「山が動けば誰でも気づくわ」「山か、確かに」戦闘爆撃機……ヤーボが絶えず黒い森を哨戒していた。彼女たちは爪であると同時に目でもある。黒い森に展開している陸上戦艦部隊を探しているのだ。「移動中を見つかるなんて、運が悪い。偽装村は目前だと言うのに」「見つかったものは仕方があるまい。ーーおっ、新記録じゃの、配置完了までの時間が短縮しとる。よしよし」とドーラは言い「ヤーボは攻撃の瞬間真っ直ぐ飛んでくる。無駄弾を撃ってやるな、爆撃の瞬間に弾幕で押し返すんじゃ」


ラーテⅤは……車長の指示で手練れの急降下爆撃やロケットを躱すなんて不可能だ。攻撃位置に付いた敵機を退かす以外に方法はない。エミーリアは防空指揮所にあがった。ラーテⅤで最も高い場所にあり、各対空砲に指示を出せる司令塔だ。一段登った先に覗き穴が広く開けられ、双眼鏡がいくつも固定されていた。エミーリアはその一つを覗き込み「敵機来る。P-72が四機」ヤーボの大きさは各銃座に付いた兵員も暗記している筈だった。暗記していなくても距離別のシルエットと翼長などの各種データを張り紙していた。正確な射程を割り出せる、だが実戦では焦るものだ。焦りは距離感を狂わせる。「五時の方向から二機仕掛けてくるわ。まだ撃たないで、焦らない、焦らないで」無線機に囁くようにエミーリアは話す。新兵の緊張が電化されて伝わる感覚があった。大馬力レシプロエンジンが引くP-72、その翼がぶら下げるロケット弾が威圧してきた。無機質な弾頭がまっすぐ、見据えていた。機関砲では射程不足。だが対空砲の練度なら、『ロケットの射程外から時限信管で迎撃』できた。


「第一、88撃て。続いて第ニ」一度には撃たない。あくまでも追い払うことが目的で、敵機は少数だ。砲に付いている兵員は半自動化された機械のように発砲を繰り返した。素早く、狂いなく、ゆっくり。第一射でP-72は対空砲火の黒い雲に飲み込まれた。だがプロペラが黒煙の渦を巻き突破してきた。有効射程ギリギリの30mm機関砲群が弾幕を張った時には最初の二機は攻撃の為の航路から離脱した。ーー囮だ。対空砲の砲口が誘導され、『反対側』からさらに二機襲撃が来た。エミーリアは矢継ぎ早に指示を飛ばす。ロケット弾は不規則な弾道だが規則的だ。ならばラーテⅤの速度とそれを狙う予想射点を割り出せば、そこに見越し射撃すればロケットに当たることはない。P-72がそれでも無理を押してくれば撃墜できる弾幕だ。


P-72は互いに囮にしあうことでロケット弾を撃ち込もうと撹乱してきた。だがエミーリアは射手とは独立した目であり本命を見逃さない。やがて焦れた一機が、無謀に突っ込んだ。「馬鹿なことを」この無謀は88mm対空砲の弾幕を抜けることに成功した。だが次の機関砲群は無理だった。対空砲とは比べものにならない追従性でP-72の未来を捕捉し、切り裂き、黒い森へと叩きつけ爆ぜさせた。「……」もしかしたら新兵だったのかも知れない、とエミーリアは撃墜したP-72のパイロットを思う。残りの敵機は、撤退していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ