第1話「切り開かれた空」
ぽっかりと空が開いていた。森林の中で、天蓋のそれだけは空だった。野砲の弾道を確保する為に開かれたものだったのだろう。自然現象ではなく、砲陣地を構築していた人工の跡だった。黒い森の常夜にはそう言った陣地が沢山あった。そんな小さな空の中で、梟が飛んでいた。陽はまだ高い。エミーリアの飼っている、ロゼットだ。「ロゼット、戻っておいで」エミーリアが、ラーテⅤの吹きさらしの手摺りからロゼットを呼んだ。賢いロゼットは空気取り入れ口から車長室に戻ってきた。早めに戻しておかないと、擦れ違う交代のラーテⅢに驚いてどこかに逃げてしまう、と考えたからだ。彼女は補給申請の書類をいくつか書き上げ、ロゼッタを籠に帰した。ポケットの中の懐中時計を見ると、車長室の主人が凍えている頃だ。エミーリアは電気ケトルで体の温まるスープを作った。
スープを持ったエミーリアはコートを着込み外へ出た。ダオティッチュの黒い森は白く咲き始め、雪吹雪の季節に入っていた。エミーリアが立ったのは、銃座の兵員の尻を叩いてやる気を出させるドーラの前だ。彼女は顔に防寒の毛皮を張ったマスクをしているせいで、他の兵士と見分けが付きにくいがすぐにわかった。「ドーラ車長、スープをお持ちしました」「おぉ、すまぬ、エミーリア」ドーラは水筒からカップに移されたスープを「あちち!ちと熱いのぉ」と言いながら飲み干した。そして次が注がれ、しかしそのスープは手がかじかみ震えている『教育されていた』兵士に譲った「不服従で懲罰中らしい」「大変ね」「機銃の扱いが下手な癖に先任に噛みついて、このザマじゃよ」「だからドーラ車長直々に教育とは贅沢な話ね」銃座についている新兵はよく見れば、頰に殴られた跡が残っていた。一発ではない、反骨心が溢れているようだ。ドーラはそんな風にあちこちの部下を見回っている。彼女の信条なのだろうが、エミーリアから深く訊くということはなかった。
「雑用は私が済ませるけど、貴方は大丈夫?」「ありがたいほどに助かっとる。無理をしたかいがあったと思っとるよ。新造の部隊だと事務や命令だけでは纏められんものじゃからな」「……部下との交流も大切だけど、よりよく隊を運営するには上にもおべっかと貸し借りするのを忘れないこと」「耳が痛くなる話じゃ」「笑いごとじゃないわ」とエミーリアは大袈裟に肩をすくめて見せ「最高を目指すのは良いけど、最高を要求しすぎないようにね」「わかっとる」とドーラは肩に積もった雪片を払った。ドーラの体温で少し溶けた雪は、雪というよりも氷の塊だ。降り積もっているのは肩だけではなかった。背中にも付いていてドーラは苦戦していた。そんなドーラを見かねて、エミーリアが背中を叩く。「痛い!痛い!」「静かにして。次は火炎放射器で炙るわよ」




