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第9話「空は切り取れない」

全ては一瞬だった。遺跡の動力炉に続く縦坑を四式戦闘機で通り抜け、爆撃、そして反転して自己崩壊する遺跡から脱出。四式の外板が内向きの爆縮の余波でたわむのを祈りながら見つめ、しかしーー振り切った。感触に違和感を感じながら、だが四式はまだ飛び続けている。「……」目の前のことだった。名も知らないが、何度も会い知っていた、あの花をもつ妖精のミーティアが目の前で、耐えられず圧壊していく姿が頭に残った。昴の四式も無傷ではない。操縦桿の効きが悪く、黒煙を長く空に引きながら酷くふらついた。


「昴、大丈夫か?」「ん!未央ちゃん、昴は無事だよ」昴は無線機からだけでなく、風防越しからでもわかるように大袈裟な身振りと手振りを見せた。どこも異常はない。遺跡はどうなったのかと、昴は振り向いた。「……」だがそこには何もなかった。島のほとんどが消滅し、今では周囲から流れ込む海水に飲み込まれつつある。遺跡の痕跡は全て失われたのだ。「ふぅ……」遺跡の消滅に、昴はこれといった感慨はなかった。別に無くなったのであれば無いで別に困りはしない程度にしか考えてはいないからだ。そんなことよりも、これから『空母に着艦』することの方が心配だ。


「これで一息、てところかな、昴」と未央が無線で話し、昴は「ん、また他の空だね。さてどこになるやら」昴と未央は最寄りの空母の甲板に、四式の翼の失速から機体を落として着艦した。ただ未央はブレーキを誤って、プロペラを曲げて昴に大笑いされたが余談だ。艦隊が遺跡の消滅した島から離れていく。昴は空母の艦尾から変わり果てた島を見つめていた。長く住んでいた島なのだ、愛着はないが、髪を引かれる感傷はあった。


「おう、昴。空母の製造機からサイダー作ってきたぞ」「おぉ!ありがと、未央ちゃん!」美味しい美味しい、とサイダーを飲む昴の隣で、未央はアイスクリンを食べていた。それを見てしまった昴は壮絶を極める顔をした。「え!?どこで作ったのそれ!昴も貰ってくる!」とサイダーを片手に走り出そうとした昴に未央は残酷な言葉「もうない」を突きつけた。


緑の海をゆく艦隊はプロペラに掻き回され生まれた気泡が白い航跡を描きながら島から遠ざかった。「おっと、先客がいました。こりゃ失礼」と感傷に浸る昴の後ろで見た水兵たちが踵を返した。手には煙草を持っていて、外で一服するつもりだったらしい。水兵の一人が「無線室の話聞いたか?」と訊くともう一人の水兵が「聞いた、聞いた。なんでも『新しい遺跡』が見つかったんだってな」防火性の材質の甲板を水兵の履く靴がこっ、こっと音をあげながら遠ざかった。


艦隊がどこに向かっているのかは、客にすぎない昴、そして尊も知らない。しかし昴はこの艦隊の行く先に暗雲のようなものがかかるのを見た気がした。

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