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第60話 精神は二つ芽吹いた

ブリュッセル郊外。

 表向きの欧州連合(EU)の主要機関からは離れた、深い森の中にひっそりと佇む古城。その地下深くに、現代のテクノロジーと中世の神秘主義が混在する、秘匿合同会議室が存在していた。


会議室の空気は、数時間前までの「焦燥」とは打って変わり、ある種の奇妙な『祝祭感』と、それを冷ややかに見据える『現実の匂い』が、複雑なマーブル模様を描いて混ざり合っていた。


巨大なモニターには、つい先ほど世界を揺るがした、二つの歴史的な会見の映像が静止画として残されている。

 中国の李天明国家主席が掲げた「精神と物質は大いなる一つである」という、新たな文明の覇権宣言。

 そして、アメリカのキャサリン・ヘイズ大統領が放った、制裁解除と「無制限入札」という、秩序の再設定。


円卓の片側には、フランス大統領、ドイツ首相を含むEU首脳陣と、外交、安全保障、経済・産業のトップ実務官たちが、厳しい顔で書類を睨んでいる。

 だが、彼らと対座する、純白と青銀の祭服に身を包んだ『ヘルメス協会』の導師たちの顔には……これまでの冷徹な選民意識とは全く異なる、純粋な【感動】の光が宿っていた。


「……素晴らしい」


ヘルメス協会の高位導師の一人が、目を閉じ、両手を胸の前で交差させて、深い歓喜の溜息を漏らした。


「まさか、この地球において。……東方の地に、我々と同じく『精神と物質の調和(大いなる一つ)』へと至る、新たな文明の萌芽が現れようとは」


別の導師も、天井を仰ぎ、まるで遠い異邦に同じ宗派の寺院が建立された知らせを受けた聖職者のように、深い感慨に咽び泣いた。

「我々は……孤独ではなかったのだな。

 この愚かで野蛮な物質主義の星において、真理の灯を持つのは我らだけであり、我らが泥を被って愚民を導くしかないのだと、そう信じていた。……だが、人類も、そう捨てたものではなかったらしい」


彼らの言葉は、傲慢な上から目線ではあるが、そこに嘘や皮肉はなかった。

 ヘルメス協会にとって、中国の「精神的覇権宣言」は、決して憎むべき敵の台頭ではなかった。むしろ、自分たちの信じる宇宙の真理(アカイア人の思想)が、地球上の別の場所でも正しく発芽したという、究極の【同類(同志)の誕生】として、本気で、そして無邪気に喜んでいたのである。


「ついに、物質主義一辺倒の世界に亀裂が入った」

 導師代表が、満足げに頷いた。

「露西亜の鉄の怪物サイボーグという醜悪な悪性腫瘍を、東の国自らが『薄汚い遺物』として切り捨てた。……これこそが、宇宙の調和が地球に根付き始めた証左です。喜ばしい。実に感動ですな」


導師たちは、互いに微笑み合い、精神主義という大いなる理想の勝利に酔いしれていた。


だが。

 その、ふんわりとした浮世離れした「ロマンと感動」の空気に。


「……いや、少し待ってください」


EU側の経済・産業担当の実務官が、たまらずといった様子で、氷のように冷たい声で割り込んだ。


「何を、そんなに感動しているんですか」

 実務官は、眉間に深いシワを寄せ、導師たちを呆れたように睨みつけた。


「……何か、おかしいことでも言いましたかな?」

 導師の一人が、怪訝な顔をする。


「おかしいどころの話ではありません」

 今度は、EUの安全保障担当幹部が、立ち上がって机を叩いた。

「中国がロシアを切ってくれたことは、確かに好都合です。ですが……彼らが精神主義を掲げたからといって、なぜ我々がそれを『手放しで喜んで』いるのですか?

 いいですか。彼らは今、四十六人の不老無病の超人を抱え、世界中の暗殺者を自国に招き入れるほどの狂気と自信に満ちた、【全く新しい超大国(脅威)】として生まれ変わったのですよ!」


実務官たちは、導師たちの「お花畑」な思考回路に、本気で苛立っていた。


「精神主義だからといって、彼らが我々の『味方』になるとは限らないでしょう! むしろ、強大な精神主義の看板を持った新たな覇権国が、東に誕生したということです。

 ……もし、彼らの『大いなる一つ』が世界を呑み込み、我々欧州が彼らの思想の前に敗北したら……それでいいと、本気で思っているのですか?」


EU側の言葉が、会議室に響き渡る。


「精神主義そのものの勝利など、どうでもいい!

 我々が勝たなければ、全く意味がないんですよ!!」


その、強烈な【現実政治リアルポリティクス】からの容赦のない突っ込み。

 国家、経済、安全保障。自国民の生活と主権を守り抜くという、泥臭い『実務』の観点から見れば、中国は同志などではなく、アメリカやロシアに次ぐ、あるいはそれ以上の、最も警戒すべき「最強の仮想敵ライバル」に他ならなかった。


「……」


導師たちは、EU実務派からのその激しい糾弾を受け、一瞬、完全に押し黙った。


彼らは、神話の夢に浸っていた。

 だが、彼らもまた、ただの狂人や愚か者ではない。ヨーロッパという複雑で血塗られた歴史の中で、生き残り、権力を裏から操ってきた本物の『エリート』たちなのだ。


数秒の沈黙の後。

 一人の高位導師が、ゆっくりと目を閉じ、そして、小さく苦笑した。


「……ううむ。確かに」


導師は、目を開き、その瞳から先ほどの「ロマンに酔った色」を完全に消し去った。

 代わりに浮かび上がったのは、冷徹で、そして強欲な『政治的プレイヤー』としての鋭い光だった。


「精神主義そのものの勝利と、我々自身の勝利を、完全に混同しておりましたな」

 導師は、あっさりと自らの非を認めた。

「信徒(政治家)たちに、生き馬の目を抜く現実を教えられるとは。……我々も、まだ未熟か」


ヘルメス協会の恐ろしいところは、ここにあった。

 彼らは狂信的ではあるが、決して思考停止はしない。現実の論理(政治的・軍事的な危機感)を突きつけられれば、それを「教義への冒涜だ」と跳ね除けるのではなく、即座に自らの姿勢を修正し、より危険な『善意の支配者(戦略家)』へと変質できるのだ。


「ならば、改めて表明しましょう」

 導師代表が、背筋を正し、宣言をやり直した。

「中国の覚醒(芽吹き)は、宇宙の現象としては歓迎する。……しかし、精神主義の未来を、彼らに丸投げするつもりは毛頭ありません」


導師代表の目が、力強く燃える。

「ヘルメス協会は、精神主義の担い手であると同時に。……この地球における【覇者(勝者)】を目指します。

 我々は我々の道を行く。……そして、我々が勝つ。

 そのためには、東の新しい帝国よりも先に、この欧州に強固な精神文明圏を確立しなければならない」


EUの実務派と、ヘルメス協会の導師たち。

 理想と現実の両輪が、ここに再び、強固な噛み合いを見せた。


「……結構です」

 フランス大統領が、深く頷き、議論を実務へと引き戻した。

「では、勝利のための具体的な盤面整理に入りましょう」


「まずは、最も緊急だった『経済』についてです」

 EUの経済担当が、アメリカのヘイズ大統領の会見映像を指差した。

「中国がロシアを切り捨て、アメリカが対中制裁の解除を発表したことで……。我々が最も恐れていた【世界経済の完全な心停止(即死ラインの突破)】は、首の皮一枚で免れました」


経済担当の顔には、隠しきれない深い安堵があった。

「これは、欧州にとっても計り知れないプラスです。もしアメリカが制裁を強行していれば、欧州の工場は来週にもすべてストップし、街には暴動が溢れ、精神主義どころか、社会そのものが崩壊していたでしょう。

 ……市場の呼吸が戻った。この『息継ぎ』の時間は、最大限に活かすべきです」


「ええ。経済の即死が回避された以上……我々が次に打つべき手は、一つしかありません」

 安全保障担当の幹部が、立ち上がり、モニターの地図を切り替えた。


映し出されたのは、ウクライナの東部戦線。

 つい先日まで、ロシアのサイボーグ部隊が投入される恐怖に怯え、悲鳴を上げていた場所だ。


「……ロシアです」

 安保幹部の目に、冷酷な狩人の色が浮かぶ。

「彼らは今、中国からの資源供給レアアースのルートを完全に断たれました。サイボーグの量産計画は、間違いなく致命的な頓挫を余儀なくされています」


「つまり、ロシアは今が一番『弱い(隙だらけの)』状態ということですね」

 ドイツ首相が、身を乗り出す。


「その通りです。世界経済の崩壊が回避され、我々の背後(兵站)が安定した今こそ……」

 安保幹部は、テーブルを強く叩いた。

「今こそ、我々NATOおよびEUの即応部隊を、ウクライナ戦線へと【直接介入(本格投入)】させる時です!

 サイボーグが完成する前に、あるいは彼らが態勢を立て直す前に。……ここで一気にロシア軍を叩き、すり潰す。物質主義の極みであるあの国を、この好機に完全に折らなければなりません!」


「賛成です」

 ヘルメス協会の導師も、強く同調した。

「穢れた鉄の信奉者たちを浄化する、またとない機会。……今すぐ、欧州の剣を振り下ろすべきです」


中国の脅威はあるが、まずは目の前の弱ったロシアを、ウクライナ戦線で完全に叩き潰す。

 EUの首脳陣も、ヘルメス協会も、その強硬な『ロシアすり潰し作戦』で完全に意見を一致させ、いざ派兵の最終決議へと入ろうとした。


まさに、その瞬間だった。


「……緊急速報フラッシュ!!」


会議室の奥の扉がバンッと開き、軍事連絡官が、血の気を失った顔で飛び込んできた。

 彼は、手元のタブレットの画面を信じられないといった様子で何度も見直し、震える声で報告を上げた。


「た、たった今、モスクワから全世界へ向けた、公式な軍事命令が傍受・確認されました!」


「なんだ! ロシアがサイボーグを前線に投入したのか!?」

 安保幹部が、色をなして立ち上がる。


「違います……逆です!」

 軍事連絡官は、絶叫するように言った。


「ロシア政府が……! ウクライナ戦線における全軍の【強制停戦】、およびロシア領内への【完全撤退】を宣言しました!!

 ……現在、東部戦線のロシア軍部隊が、一切の戦闘を放棄し、一斉に国境線に向けて後退を開始しています!!」


「……は?」


会議室にいた全員の思考が、完全に停止した。


「撤退……?」

 フランス大統領が、間の抜けた声を漏らす。

「今、と言ったか? このタイミングで……ロシアが、ウクライナから引いていると?」


「はい! 大規模な重火器を放棄してでも、とにかく兵士の『生還』を最優先にするという、異常なまでの撤退速度です。……戦線は、完全に崩壊しています!」


その報告の意味を理解した瞬間。

 EUの安全保障幹部と、東欧圏の代表たちが、一斉に顔面を蒼白にし、そして激しい怒りと悔しさに顔を歪めた。


「しまった……ッ!!」

 安保幹部が、机を拳で叩き割らんばかりの勢いで殴りつけた。


「逃げられた!!!」


その絶叫が、会議室の空気を完全にひっくり返した。

 さっきまで「今こそロシアを叩き潰す好機だ」と意気込んでいた彼らの前に、敵はすでに背を向けて、全速力で戦場から逃げ去っていたのだ。


「クソッ! ここで戦線を捨てるか!」

 ポーランド首相が、頭を抱えて唸った。

「あのボグダノフは、一寸の領土も譲らず、地面にしがみついて血を流し続ける、旧態依然とした独裁者だと思っていたのに!……ここで、この泥沼を損切りできるほどの冷徹な計算ができる男だったのか!」


「もっと愚かであってくれれば、ここで一網打尽に潰せたのに……!」

 軍の将官も、奥歯をギリッと噛み鳴らした。


彼らは、ロシアという国家を侮っていた。

 サイボーグ兵という力に溺れ、中国の裏切りに我を忘れて暴走する、単純な狂人国家だと思い込んでいた。

 だが、現実は違った。彼らは、中国に裏切られ、アメリカに経済を絞められたこの最悪の盤面で、自らの損耗を即座に見切り、「五年後の中国」を見据えて戦力を温存するという、極めて高度で合理的な『撤退の判断』を下したのだ。


「追撃だ!!」


強硬派の一人が、血走った目で叫んだ。

「今すぐNATO軍を出して、背中を見せているロシア軍を背後から叩け! いま叩けば、ロシア軍を完全に壊走(全滅)させられるぞ!」


「馬鹿を言え!」

 だが、その短絡的な主張を、ドイツ首相が即座に、そして激しい怒声で制止した。


「撤退している相手の背中を、我々から撃つと言うのか!?

 相手は『停戦』を宣言して引いているんだぞ! そんな相手に正面から砲火を浴びせれば、こちらが『侵略者(虐殺者)』になる!」


「しかし、ここで逃がせば、彼らはシベリアで再びサイボーグを……!」


「欧州の世論が持つわけがないだろう!」

 フランス大統領も、強硬派を冷酷に黙らせた。

「市民は今、オーロラの恐怖から解放されたばかりだ。そこに『ロシアが逃げているから追いかけて殺せ』と言って、誰が賛同する?

 それに、法的にも政治的にも、今はこちらから先に引き金を引く(一線を越える)大義名分が完全に失われているのだ。……今は、絶対に撃てない」


EUの限界。

 それは、彼らがどれほど精神主義のロマンに浸ろうとも、いまだ「民主主義と大義名分」という、極めて重く足枷となる現実のルールに縛られた陣営であることの証明だった。

 冷徹に損切りをして逃げるロシアの背中を、彼らはただ、歯噛みしながら見送ることしかできなかった。


「……撤退は、許すしかないでしょう」


重苦しい空気の中、ヘルメス協会の導師代表が、静かに、しかし冷たい怒りを込めて言った。


「ですが……制裁は、決して解きません」

 導師の目は、氷のように冷え切っていた。

「彼らが戦場から逃げられたからといって、罪が許されたわけではない。……戦場からは逃がしても、制度と経済の輪(包囲網)からは、絶対に逃がさない」


「ええ、当然です」

 EUの経済担当が、深く頷いた。

「アメリカとも連携し、対露経済制裁のラインは最高レベルで維持します。……彼らのサイボーグ工場に、一滴の血(資源)も流させない」


武力で追撃できない悔しさを、彼らは「経済的な締め上げの継続」という現実的な手札へと変換した。


「……なら、次に我々がやるべきことは一つですね」


ここで、EUのウクライナ支援担当の官僚が、メガネのブリッジを押し上げながら、極めて合理的で、そして欧州らしい『打算』に満ちた提案を口にした。


「ロシアが撤退したことで……ウクライナには今後、国家を再建するための、膨大な【復興需要】が生まれます」

 支援担当官の口元には、薄い笑みが浮かんでいた。

「インフラの修復、医療、電力網、住居、輸送。……これらすべての再建事業に、我々EUの企業を大量に、最優先で投入すべきです。

 表向きは、戦禍に苦しんだ同盟国への『善意の復興支援』です。……ですが、裏を返せば、これはウクライナの政治的影響力と、彼らが持つ天然ガスや農地といった【資源の権益(利権)】を、我々が完全に押さえるための、絶好の足場固めになります」


善意と復興支援を盾にした、あからさまな利権の確保。

 だが、この会議室にいる政治家たちの中で、その露骨な提案に眉をひそめる者は一人もいなかった。国益を確保するためには、当然の手段だからだ。


「……素晴らしい提案ですな」

 ヘルメス協会の高位導師の一人が、その利権の話に、彼ら特有の『精神主義』のアプローチを重ねてきた。


「ならば、EU企業がインフラを復旧させると同時に……我々ヘルメス協会からは、【導師】を多数、ウクライナへ派遣しましょう」

 導師は、慈愛に満ちた顔で言った。

「戦火の後に、人々が真に必要としているのは、食糧や薬だけではない。……傷ついた『魂の癒し』です。

 我々の導師たちが、現地の人々に寄り添い、祈り、癒しを与える。……癒しと再建は、彼らを我々の思想(精神文明圏)へと導くための、最も自然で、最も強力な手段となります」


物理的なインフラをEU企業が握り、精神的なインフラをヘルメス協会が握る。

 武力による侵略(ロシアのやり方)ではなく、復興支援と癒しという「善意の顔」をした、完璧な国家の乗っ取り(同化)。

 これが、中国の「意味を塗り替える」やり方とはまた違う、欧州特有の洗練された精神主義の浸透戦略だった。


「結構です。その方針で進めましょう」

 フランス大統領が、満足げに頷いた。


「……ところで」

 ここで、安全保障担当の幹部が、もう一つの巨大な変数について口を開いた。


「アメリカは、どうしますか?」


その問いに、会議室の空気が少しだけ複雑に揺れた。


「ヘイズ大統領は、無制限入札という強硬手段に出ました。彼らもまた、独自のアーティファクトを手に入れようと危険な橋を渡り始めています」

 安保幹部は、警戒の色を隠せずに言う。

「彼らを、我々の『あるいはライバル』として明確に位置付けるべきでしょうか?」


だが、その問いに対し、ヘルメス協会の導師代表は、静かに首を横に振った。


「アメリカは……まだ、定まっていません」

 導師は、遠くアメリカ大陸を見透かすような目で言った。

「彼らは、ロシアのように物質主義(機械)に完全に堕ちたわけでもなく。かといって、我々のように精神主義の境地に至ったわけでもない。……ただ市場と制度の力で足掻いているだけの、【過渡期】の存在に過ぎない」


導師の言葉には、アメリカに対する恐れはなかった。あるのは、上位存在としての「猶予」だった。

「彼らは、観察する余地があります。

 ……見守ることもまた、我々の寛容です。今、無理にアメリカを敵認定して衝突する必要はない」

 導師は、冷たく締めくくった。

「だが。……完全に心を許せる『友』だとも、決して思うな」


アメリカは、保留。

 それが、EUとヘルメス協会が出した、極めて現実的な答えだった。


「……盤面は、複雑化しましたね」


ドイツ首相が、会議の総括として、深く息を吐き出した。

「中国は脅威となり、ロシアは取り逃がし、アメリカはまだ流動的。……決して、我々に都合の良い世界になったわけではない」


「ですが、我々のゴールは変わっていません」

 フランス大統領が、力強く宣言した。


「まずは、【EUの足場固め】です。

 ウクライナを我々の圏内に組み込み、欧州全域を精神主義の中心圏として完全に安定化させる。

 ……中国と覇権を競うにせよ、アメリカを見守るにせよ。我々に強固な『土台』がなければ、これからの時代は生き残れない」


会議の結論は出た。

 彼らは、オーロラの歓喜に浮かれることなく、すぐに現実の泥臭い陣地取りへと歩みを進めることを決めたのだ。


「……東にも、芽吹いた」


会議の終わり。

 ヘルメス協会の導師代表が、静かに目を閉じ、遥か東方の地――中国の崑崙を思い浮かべながら、ポツリと呟いた。


「ならば西は……もっと深く、もっと強固に、この地に根を張らねばなりませんな」


その言葉は、祝福ではなく、明確な『闘争』の意志だった。


精神主義の文明は、地球上に二つ芽吹いた。

 だが、彼らは決して手を取り合うことはない。

 どちらが真の宇宙の調和に至るのか。どちらが地球の覇者となるのか。

 血を流さない戦争。意味と魂を巡る、最も静かで、最も恐ろしい侵略ゲームが、今、ヨーロッパの地から静かに始まろうとしていた。



最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
官僚が指摘しなかったら、普通に中国と共闘してたのか・・・。やっぱりここが一番危険だな。
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