第57話 無制限入札
中国の李天明国家主席が、世界を畏怖と混乱のどん底に突き落とした「仙人宣言」から、わずか三時間後。
世界中のニュースネットワークは、いまだにあの異常な人民大会堂の映像をリプレイし続け、各国の市場は取引再開に向けた期待と、新しい神話国家誕生の恐怖がないまぜになったパニック状態に陥っていた。
そんな中、アメリカ合衆国・ホワイトハウスから、世界中のメディアに向けて【緊急大統領会見】の開催が通達された。
ホワイトハウスの内部は、軍事的な喧騒とは異なる、しかし平時の行政とは完全に一線を画した「戦時内閣」特有の、血を吐くような実務の熱気に包まれていた。
財務省、国務省、国防総省、情報機関、そして司法省のトップエリートたちが、ウエストウィングの廊下を小走りで駆け抜け、分厚いファイルを抱えて怒号を交わしている。
彼らが今、狂ったような速度で処理しているのは、対中完全経済制裁を即座に解除するための法的手続き、大統領令の書き換え、そして全世界の金融機関と港湾当局へ向けた「緊急通知」の優先順位の再編だった。
「通常の手続きでは絶対に間に合いません!」
財務省の高官が、大統領執務室の前で国家安全保障担当補佐官に詰め寄っていた。
「制裁解除のリストアップと、SWIFT(国際銀行間通信協会)への再接続プロトコルを今から回せば、最短でも数日は……」
「間に合わせるんじゃない。大統領の言葉を【そのまま法律にする】んだ」
補佐官は、一切の妥協を許さない冷徹な声で一蹴した。
「市場が開く前に、アメリカ合衆国が中国の『復帰』を完全に承認したという事実を、システムよりも先に世界に叩きつける。……実務は、後から大統領の言葉に這いつくばってでも追いつけ。それが今回の会見の絶対条件だ」
大統領執務室の重厚なマホガニーの扉の奥で。
キャサリン・ヘイズ大統領は、紺色のスーツの襟を正し、鏡の前で自らの表情を冷たく、そして完璧に調整していた。
「……大統領」
側近の一人が、手元の原稿の最終チェックを行いながら、微かな懸念を口にした。
「今回の声明の文言ですが……中国の行動を評価しすぎるのは危険です。国内の強硬派からは、『アメリカが中国の超常的な力に怯えて尻尾を振った』と、弱腰(屈服)の烙印を押されかねません。中国に寄りすぎないよう、表現には細心の注意を……」
「ですが、制裁解除のメッセージだけは、絶対に濁してはなりません」
別の経済担当の側近が、食い気味に反論する。
「今、少しでも我々の態度に『迷い』が見えれば、市場は疑心暗鬼に陥り、世界経済は本当に修復不能な状態(心停止)に陥ります。……ここは明確に、中国を信頼すると……」
「『信頼する』という表現は、絶対に使わないわ」
キャサリンは、鏡から視線を外し、振り返って側近たちの議論を静かに、しかし刃物のような冷たさで切り捨てた。
「危険でも、事実は事実として言う。……でも、感情は一ミリも乗せない」
彼女の顔には、大国のリーダーとしてのプライドを傷つけられた怒りも、世界経済が救われるかもしれないという安堵も、微塵も浮かんでいなかった。
あるのは、かつて法廷で凶悪犯や巨大企業を追い詰めてきた、冷徹な『検事』としての顔だけだ。
「中国の会見は本物よ。ロシア切りは歓迎する。でも……アメリカは、あの精神的覇権宣言に屈したわけじゃない」
キャサリンは、原稿を一切持たずに、執務室の扉へと歩みを進めた。
「私たちは今日、『負けました』とは言わない。……『盤面を更新する。レースは続いている』と、そう世界に宣告するのよ」
***
時刻は、米国東部標準時の正午過ぎ。
世界中のテレビ画面、スマートフォン、街頭の巨大ビジョンが、先ほどの中国の赤い演壇から一転して、アメリカ合衆国・ホワイトハウスのブリーフィングルームへと一斉に切り替わった。
NHK、BBC、CNN、FOX、CCTV、アルジャジーラ。すべての国際ネットワークが、再び『同じ画面』を映し出している。
世界中の一般市民は、画面の向こう側の景色が変わったのを見て、誰もが同じことを思った。
「また全局これか」
「ロシアが化け物を作って、中国が仙人になった。……じゃあ、アメリカは何て言うんだ?」
ざわめきとフラッシュの瞬きに包まれていたブリーフィングルームが、大統領の入場と共に、一瞬にして水を打ったような静寂に支配された。
キャサリン・ヘイズ大統領は、中国の李天明のように、背後に数十人の長老を従えるような異様な神話的演出は一切行わなかった。
彼女は、星条旗を背に、控えめな演台の前に、ただ一人で立った。
余計な神話感はゼロ。だが、その背後に透けて見えるのは、世界最大の軍事力と経済力、そして緻密に構築された『制度国家』としての、圧倒的で冷たい威圧感であった。
カメラが、大統領の顔を捉える。
その表情は、連日の危機対応による深い疲労が刻まれていた。しかし、瞳の奥の光だけは決して死んでいない。感情を完全に殺し、事実だけを切り刻む検事の顔がそこにあった。
「……本日、中国国家主席が全世界に向けて発した声明は、人類史に残るものでした」
キャサリンの第一声は、一切の煽りも、無駄な感情の起伏もない、極めてフラットなものだった。
「私はまず、二つの【事実】を確認します」
彼女は、法廷で証拠を提示するように、論点を明確に二つに切った。
「第一に、中国はロシアとの結びつきを断ちました。
第二に、世界経済はいまもなお、修復不能の閾値に近い場所にあります」
彼女は、世界中の人間が最も気にしている「現実の危機」を、一切の誤魔化しなくテーブルの上に置いた。
「この二つの事実を前提に。合衆国の立場を明らかにします」
キャサリンは、一呼吸置き、世界経済の命運を分ける【第一の爆弾】を、無機質に投下した。
「合衆国は、中国が世界経済の回復に対して果たすべき『責任ある行動』を選んだと判断します。
……よって、対中完全経済制裁は、本会見終了と同時に【全面解除】します」
フラッシュが、嵐のように焚かれた。
だが、キャサリンは記者の反応を待つことなく、矢継ぎ早に実務的な命令を公の電波に乗せて言い放った。
「関係各省庁、関係機関、連邦準備制度、港湾、保険、決済、税関、すべての物流管理部門に、この場をもって通達します。
中国の世界経済への復帰と、サプライチェーンの回復を、いかなる煩雑な書類手続きよりも【優先】してください」
それは、官僚主義の壁を大統領権限で物理的に叩き壊す、強烈なトップダウンの命令だった。
「私は、行政の遅さで文明の回復を妨げるつもりはありません。……署名より先に、現実を優先します。手続きは後で追いつけばよい。だが、経済の心停止は待ってくれないのです」
その言葉に、ブリーフィングルームの記者たちは一斉に端末を叩き、「アメリカ、対中制裁を即時解除!」という速報が、光の速さで世界中の市場とネットワークへと飛んでいった。
これで、世界経済の血液は再び流れ始める。人類は、最悪の餓死と恐慌の危機から、首の皮一枚で救い出されたのだ。
だが、キャサリンの表情に安堵は微塵もなかった。
経済の救済は、あくまで「前提条件」のクリアに過ぎない。本当に恐ろしいのは、ここから先の話だった。
「次に、より重い事実に触れます」
キャサリンの声が、一段階低く、そして鋭さを増した。
「中国国家主席が先ほど述べた内容……崑崙、仙人、そして四十六名の不老無病について。合衆国は、あらゆる情報網を用いて独自の分析と照合を行いました」
世界中が、息を呑んだ。
アメリカは、中国のあの荒唐無稽な「神話の宣言」を、どう評価するのか。フェイクだと笑い飛ばすのか、それとも……。
「私の結論は、明確です」
キャサリンは、カメラのレンズを真っ直ぐに見据え、冷徹に断言した。
「あの会見の【中核部分】は、真実です」
ピタリ、と。
記者たちのタイピングの手が、一瞬完全に止まった。
アメリカ合衆国大統領が、公式の場で「中国の指導層が不老無病の超人になった」というオカルトを、国家のインテリジェンスの総意として【事実認定】してしまったのだ。
「合衆国は、彼らの発言を『全面的に信奉する』わけではありません。我々は宗教国家ではない」
キャサリンは、極めて慎重に、しかし逃げ場のない論理で言葉を紡いだ。
「ですが……少なくとも、あの会見が『虚偽』であるという前提で今後の政策を組むことは、現実からの逃避に等しい。
……合衆国は、その逃避を選びません」
現実がどれほどSFじみていようと、狂っていようと、それを【事実】として受け入れ、その上で国家戦略を再構築する。
それが、非常時の帝国・アメリカの恐ろしいまでの適応力だった。
「これに伴い、合衆国は今後、中国を、従来と同じ『単なる一国家』としてのみ扱うことはしません」
キャサリンは、世界観を完全に制度化するための、新たな【枠組み(カテゴリ)】の創設を宣言した。
「中国は自らを、大いなる一つを掲げ、精神的覇権を担う新しい文明圏として提示しました。……我々は、それを軽視しません。
ゆえに今後は、中国を【精神主義側の文明圏】として、配慮し、区別した扱いに移行します」
精神主義文明圏。
現代の国際政治において、決して使われることのなかったその特異な分類が、今、アメリカの口から公式な外交用語として定義された。
「そして、この扱いにおいて、我々は特定の国家だけを特別視(区別)するつもりはありません」
キャサリンは、さらに衝撃的な言葉を続けた。
「EU域内において、同様の精神主義秩序(宇宙との調和)を形成しつつある【ヘルメス協会】についても……合衆国は今後、中国と全く同じ扱い(精神主義文明圏)を取るものとします」
「……っ!?」
会見場の記者たちが、思わずざわめいた。
「中国だけじゃないのか」
「EUの裏の組織まで、公式に精神主義扱いするってことか!?」
「アメリカは、完全に世界の認識を変えたぞ……」
国家やイデオロギー(民主主義か共産主義か)という古い分類ではなく。「物質」か「精神(仙人)」かという、地球外テクノロジーの性質に基づく全く新しい地政学のマップが、アメリカによって正式に引かれた瞬間だった。
「ここで、合衆国の今後の方針を明確にします」
キャサリンは、ざわめく記者たちを冷たい視線で制圧し、ここから会見のフェーズを『防御(現状の確認)』から、圧倒的な『攻勢』へと切り替えた。
「我々は、この新しい現実から目を逸らさない。そして、合衆国もまた、この変化の外側に立つつもりは毛頭ありません。
……合衆国は今後、地球外テクノロジーについて、積極的な情報提供、現物提供、および研究資料の提供を求めます」
キャサリンは、一拍の間を置き。
この会見における【最大の爆弾】を、世界中に向けて投下した。
「あらゆる窓口を開きます。……対価は、対象となるアーティファクト、情報、現物の質によって異なります」
キャサリンの目が、これまでで最も鋭く、そして野心的な光を放つ。
「ですが、一点だけ、決して曖昧にはしません」
彼女は、ゆっくりと、はっきりと宣言した。
「――【予算は、無制限です】」
「……は?」
最前列に座っていたベテラン記者が、思わず素っ頓狂な声を漏らした。
「これは、あらゆる取引を含みます」
キャサリンは、記者たちの困惑を無視し、その無制限の宣言がいかに常軌を逸したスケールであるかを、冷酷に補足していく。
「国連加盟国はもちろん、非加盟国にも適用されます。
国家、政府機関、民間企業、個人研究者、亡命者、そして……仲介者。そのすべてが対象です。
合衆国は、本日この瞬間より、地球外テクノロジーの情報と現物に対して、世界最高値での【指名買い(無制限入札)】を開始します」
予算無制限。すべての国家と個人が対象。
それはつまり、アメリカ合衆国が自国の持つ天文学的なドル(経済力)をすべて兵器化し、世界中に散らばっているであろう「地球外の遺産」を、札束の暴力で根こそぎ買い漁るという、究極の【オークション(争奪戦)】の開幕宣言だった。
「私は、価格で未来を逃すつもりはありません」
キャサリンのその一言が、会見室を完全に凍りつかせた。
記者たちは、一瞬、質問の手を止めてしまった。
彼らはさっきまで、「中国の恐ろしい会見の余波」について、大統領がどう弁明するのかを聞くつもりでこの部屋に入ってきたのだ。
だが、今目の前で起きているのは、防戦一方のアメリカの姿ではない。
中国が神話の力で世界をひっくり返した直後に、アメリカは『市場と金(資本主義の究極の暴力)』という自分たちの最大の武器を使って、強引に盤面のルールをぶっ壊しに来たのだ。
ロシアが怪物を作った。
中国が神話国家になった。
そして今……アメリカが、世界を巻き込む無制限の闇市を開いた。
「……大、大統領!」
数秒の空白の後、ようやく我に返った最前列の記者が、弾かれたように立ち上がり、金切り声を上げて質問を投げつけた。
「率直に伺います!」
記者は、震える声で核心を突いた。
「中国の要求を受け入れ、制裁を解除し、中国の『仙人』という非科学的な会見の真実性まで公式に認めた。……それはつまり、合衆国が、この地球外テクノロジーのレースにおいて、【中国に敗北した】ということを認めた、ということですか!?」
それは、アメリカのプライドを根底からえぐる、最も痛烈な質問だった。
だが、キャサリンは、その質問に対しても一切感情を乱すことなく、検事のように冷徹に事実を切り分けた。
「……レースには、負けています」
キャサリンは、驚くほどあっさりと、その敗北を認めた。
「少なくとも、本日の時点では、中国が先頭に立った。……それは、我々が受け入れるべき事実です」
記者たちが、ざわめく。アメリカ大統領が、明確に他国への劣後を認めたのだ。
「ですが」
キャサリンは、声のトーンを一段階下げ、不敵な響きを込めて言った。
「まだ、レースは【序盤】です」
彼女の瞳の奥は、黒く燃えていた。
「合衆国は、おめおめとこのまま負け犬になるつもりはありません。
私は、中国が先頭にいるという現実を否定しません。……と同時に、この現実(順位)が永遠に固定されたとも、全く考えていません」
「では、中国に『屈した』わけではないと?」
別の記者が、食い下がる。
「彼らの精神的覇権を名乗る相手に、制裁解除という『信任』を与えたように見えますが!」
「屈服ではありません。……盤面の更新です」
キャサリンは、冷たく切り捨てた。
「中国は、ロシアを切るという責任ある選択をした。我々はそれを利用して、世界経済を救う。そして同時に……我々は、次の局面で勝つための準備を始める。
それを屈服と呼ぶのなら、私は貴方に、その言葉の意味を辞書で見直すようお勧めします」
完璧な論破。
記者たちは、大統領の気迫と論理の前に、次々と圧倒されていく。
「中国が掲げた“精神的覇権”を、アメリカは認めるのですか?」
「認めるのは、“存在”です」
キャサリンは即答した。
「同意ではありません。彼らがそう自称し、それを支えるだけの圧倒的な事象(不老無病や跳躍)を世界に提示した以上、我々はそれを『現実』として扱う。……現実を認識することと、彼らに服従することは全く別の次元の話です」
「ヘルメス協会を含むEUも、精神主義側の文明圏として扱うと仰いましたが、それはEUを中国と同等の『異質な存在』として見るということですか?」
「ええ」
キャサリンは、同盟国に対する配慮を一切見せずに頷いた。
「中国だけを例外扱い(モンスター扱い)するつもりはありません。……思想体系、行動様式、秩序形成の方向が同じであるならば、こちらの外交的な分類も同じになります。現実に即して扱うだけです」
次々と浴びせられる厳しい質問を、キャサリンは法廷の論点整理のように、冷徹に、そして正確に捌いていく。
だが。
その矢継ぎ早の質疑応答の中で。
一人のベテラン記者が、この会見の中で最も恐ろしく、最も『ヤバい』矛盾を突く質問を投げかけた。
「……確認します、大統領」
記者は、ごくりと唾を飲み、震える声で問うた。
「先ほど、地球外テクノロジーの売買について、国連加盟国か否かは問わず、無制限に予算をつけると仰いました。
……それは、イランや北朝鮮といった【テロ支援国家】、あるいは国際手配されている【テロ組織】からの、情報提供や現物の持ち込みであっても……対象に含まれる、という意味ですか?」
ピタリ、と。
会見室の全員が、息を呑んだ。
テロリストから、アメリカ合衆国が直接、未知の兵器を金で買い取る。
それは、アメリカがこれまで掲げてきた「テロリストとは交渉しない」という絶対的な国家の原則を、根底から覆す行為だ。
さすがに、それは否定するだろう。誰もがそう思った。
しかし。
キャサリン・ヘイズは、瞬き一つせず、カメラを真っ直ぐに見据えたまま。
極めて冷酷に、そして強く、言い切った。
「例外は、ありません」
「……っ!!」
会見室が、完全に凍りついた。
「私は、この未知のテクノロジーを巡る極限の局面において、倫理や建前を優先して『窓口を閉ざす』ことの方が、国家にとって遥かに愚かで致命的な行為だと考えています」
キャサリンは、自らの言葉がどれほどの批判を呼ぶかを知り尽くした上で、あえて退路を断った。
「繰り返します。情報と現物をもたらす者に対し……我々は、例外を設けません」
「だ、大統領! それは……!」
別の記者が、悲鳴のように叫んだ。
「それは、アメリカ合衆国が国家として……世界最大の【闇市場】を自ら開くという宣言ではありませんか!」
「違います」
キャサリンは、その批判を、圧倒的な強者の論理で力ずくでねじ伏せた。
「闇市場とは、国家が現実を認めず、臭いものに蓋をして『地下』へ追いやった時に生まれるものです」
彼女の灰色の瞳が、冷たく燃える。
「私は今、地下で蠢いていた者たちを、すべて『地上(アメリカの管理下)』に引きずり出しているだけです。
この分野において、透明性(金の力による管理)は、隠蔽よりもまだマシです。……もはや、『危険だから見ない(買わない)』という綺麗事は、通用しない段階に入ったのです」
誰も、再反論できなかった。
アメリカは、完全に平時のルールを捨て去ったのだ。
正義の味方であることをやめ、世界中のどんな汚い手を使ってでも、未知のテクノロジーを掻き集める巨大な「欲望のブラックホール」へと、その姿を変えたのである。
「……以上で、本日の会見を終わります」
キャサリンは、静まり返った記者たちを見渡し、最後に、世界中へ向けた【まとめの宣言】を口にした。
「私は今日、三つのことを宣言しました。
中国に対する経済制裁の解除。精神主義文明圏の存在認定。……そして、合衆国による『地球外テクノロジー争奪戦』への、本格的な参入です」
彼女は、一切の迷いのない声で締めくくる。
「私は、世界が変わったという事実から、決して目を逸らしません。
そして、アメリカ合衆国もまた……この巨大な変化の『外側』に立つつもりは、毛頭ありません」
キャサリンは、最後にほんのわずかに口角を上げ、氷のように冷たい、そして野心に満ちた笑みを浮かべた。
「……レースは、続きます」
「そして、合衆国は……まだ走る。……以上です」
大統領が演台から立ち去り、会見室の重厚な扉が閉まる音が響く。
だが、世界中のニュースルームも、ネットのタイムラインも、その余韻に浸る余裕など全くなかった。
ロシアが怪物を作り出した。
次に、中国が神話(仙人)国家になった。
そして、その直後に。
アメリカ合衆国が、世界の市場と制度を完全にハッキングし、全世界に向けて「無制限のオークション(欲望の解放)」を仕掛けてきたのだ。
『ロシアがヤバいと思ったら、中国がもっとヤバかった』
誰かが、ネットの片隅でそう呟いた。
すると、別の誰かが、絶望的なリプライを返した。
『……いや。今の会見を見る限り、あの綺麗事をすべて捨てたアメリカも、十分すぎるほどヤバい』
誰もが、悟ってしまった。
この世界で覇権を争う超大国たちは、すべて、完全に、そしてそれぞれ全く違う方向に【狂ってしまった】のだと。
正気な国など、もうどこにも残っていない。
人類は、誰が生き残るかすら分からない、最悪の『異星技術争奪デスゲーム』の第二ラウンドへと、強制的に引きずり込まれたのである。
最後までお付き合いいただき感謝します。
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