第3話 賢者の箱と、愚者たちの火遊び
ワシントンD.C.の中心部から遠く離れ、堅牢な岩盤のさらに奥底に穿たれた秘密空間。
アメリカ合衆国の公式な地図には存在せず、時の大統領でさえその全貌を完全に把握していない超法規的秘密組織セレスティアル・ウォッチの心臓部、「エリア・デルタ」の最高会議室である。
地上では季節の風が吹き、人々が日々の生活に追われているであろう時間帯だが、この地下深くに自然の光や風が届くことは永遠にない。
最先端の空調システムが一定のリズムで吐き出す微かな低周波音と、壁の向こう側で稼働し続ける巨大なサーバー群が発する無機質な熱気だけが、この部屋の「環境」を形成していた。
その部屋の空気は、鉛のように重く、そして沈鬱だった。
円卓の中心に投影された巨大なホログラフィック・ディスプレイには、南米アンデス山脈の標高五千メートルを超える過酷な高地で、多数の犠牲を払いながらようやく回収された謎の遺物が映し出されている。
彼らが「知識の箱」と仰ぎ見て、そして数日前の通信で、見えざる上位存在から「ファーストコンタクト準備パッケージ」という屈辱的な真名を突きつけられた、表面に太陽の紋様が刻まれた完全な立方体。
それが今、青白い光を放ちながらゆっくりと空中で回転していた。
円卓を囲むのは、セレスティアル・ウォッチの中枢を担う三人の男たちだった。
技術解析部門の主任であるドクター・ケンドールは、血走った目でホログラムを睨みつけ、神経質に組んだ両手の指を白くなるまで握りしめている。
彼の足元では、貧乏揺すりが止まらない。
対面に座る諜報部門を統括する通称スパイマスターは、感情の起伏を一切読み取らせない能面のような顔で腕を組み、ただ静かに沈黙を守っていた。
彼の視線は箱のホログラムと、上座の男を交互に探っている。
そして、その上座に深く腰を沈めているのが、この強大な組織の頂点に立つ男、オブザーバー・アルファである。
アルファは、完璧に仕立てられたスーツのシワ一つない袖口に視線を落とし、見えない埃を払うような仕草をした。
彼の内心には、先日の通信で味わわされた、得体の知れない存在――〈サイト・アオ〉の代表、ティアナ・レグリアと名乗ったあの声の主――からの、圧倒的なまでの「格下扱い」の余韻が、胃の腑を焼くような不快感と共に居座っていた。
怒りではない。
怒りは対等な相手にのみ抱く感情だ。
彼が感じているのは、這い寄る蟻が人間に靴底を向けられた時に感じるであろう、絶対的な無力感と恐怖、そしてそれを覆い隠すための分厚いプライドの軋みだった。
「……さて」
アルファは、変調された低く重い声で沈黙を破った。
その一言だけで、部屋の空気がさらに数度冷え込んだように感じられる。
「先日の『ホットライン』における神託の評価と、今後の我々の方針を決定する。議題は二つだ。手元にあるこの『知識の箱』の処遇、そして……世界中で急速に悪化している裏社会の状況についてだ。まずは、ドクター・ケンドール。君の部門の進捗と見解を聞こう」
名指しされたケンドールは、弾かれたように顔を上げた。
彼の目は、科学者特有の純粋な探求心と、それが満たされないことへの強烈なフラストレーションで濁っていた。
「長官、私は……私はあの正体不明の『代表』とやらの言葉を、素直に受け入れることには反対です」
ケンドールは、乾いた唇を舐め、早口でまくし立て始めた。
「確かに、彼らの情報収集能力や、我々の通信網への干渉技術は認めざるを得ません。しかし、あの箱が『未熟な文明向けの教科書』であり、強引に開ければ『データが崩壊してただの鉄屑になる』という警告は、我々の解析を遅らせるための巧妙なハッタリである可能性を棄却できません。彼らは我々がこの箱の真理に到達し、彼らと同等の、あるいは彼らを脅かす技術力を手に入れることを恐れているのではないでしょうか」
アルファは無表情のまま、先を促すようにわずかに顎を引いた。
「レーザーによる物理的切断が防壁に阻まれたのは事実です。ですが、我々にはまだカードがある。超高圧環境下での強制クラック、あるいは素粒子レベルでの局所的な崩壊誘導……リスクはありますが、突破できる可能性はゼロではない。あの中には、人類を数世紀、いや数千年飛躍させる技術が眠っているのです。それを、顔も見せない相手の『忠告』一つで、指をくわえて眺めているなど、科学者として、いや人類としての大損失です!」
ケンドールの声は部屋に響き渡り、そして虚しく消えた。
アルファの沈黙が、彼にプレッシャーとしてのしかかる。
「……ケンドール。君の科学者としての野心は高く評価している。だが、君は盤面が見えていない」
アルファの変調された声は、氷のように冷酷だった。
「相手がハッタリをかましている? なぜ、彼らが我々にそんな小細工をする必要がある? 我々が誇る最新鋭のスーパーコンピュータによるハッキングを、彼らは『石器時代の算盤』程度にしか見ていないのだぞ。我々が必死にこじ開けようとしている扉を、彼らは既に通り過ぎ、遥か高みから見下ろしている。そんな彼らが、我々の進化を『恐れる』と本気で思っているのか?」
ケンドールは反論しようと口を開いたが、アルファの冷ややかな視線に射すくめられ、言葉を飲み込んだ。
「長官の仰る通りです、ドクター」
ここで初めて、スパイマスターが静かな声で口を挟んだ。
「我々諜報部門のプロファイリングでも、あの『代表』の言動に、我々への恐怖や焦りは一切感知できませんでした。あるのは、圧倒的な余裕と、一種の……娯楽として我々を観察しているような気配のみ。もしあの箱が本当に『鉄屑』に変わってしまえば、我々は宇宙の隣人から『知性なき猿』の烙印を押され、二度とコンタクトの機会を得られなくなる。そのリスクは、国家安全保障の観点から見て、到底許容できるものではありません」
「……では、どうしろと言うのですか!」
ケンドールが悲痛な叫びを上げた。
「あの箱の表面に刻まれた幾何学紋様……あれの論理パズルを正攻法で解読しろと? 長官ご自身が聞かれたはずだ、相手は『今のスーパーコンピュータなら三百年かかる』と笑ったのですよ! 我々の寿命どころか、合衆国の歴史すら超える時間をかけろと言うのですか!」
「そうだ。三百年かかろうと、やるしかないのだ」
アルファは、卓上に置かれた両手を深く組み合わせ、決定を下した。
「過激な物理的手段、及びシステムに負荷をかける強引なハッキングは、現時刻をもって全面凍結とする。方針は『非破壊による論理パズルの完全解読』への完全シフトだ。演算能力が足りないのなら、NSAやDARPAのシステムを裏から接収してでも計算資源を確保しろ。民間のものでも構わん。君の部門のリソースは無制限に引き上げる。だが、箱には指一本、物理的な傷をつけることは許さん」
それは、アメリカ合衆国の最高峰の頭脳たちに、果てしのない徒労を命じるに等しい残酷な決断だった。
ケンドールの肩が、絶望に打ちひしがれたようにガクリと落ちる。
アルファ自身も、この決断を下すことは文字通り屈辱の極みだった。
自分たちの限界を突きつけられ、見知らぬ「神」の定めたルールに従うことしかできない無力感。
だが、人類の命運を預かる者として、プライドのために未来を「鉄屑」にするギャンブルは絶対に避けねばならなかった。
「……承知、いたしました」
ケンドールは、絞り出すような声で同意した。
彼の心の中の火は消えてはいないだろうが、今は組織の長に従うしかなかった。
「よろしい。では、次の議題に移る」
アルファは、感情を切り替えるようにホロディスプレイの表示を切り替えさせた。
知識の箱の映像が消え、代わりに赤と黄色の不吉な光点が無数に点滅する、世界地図と複雑なネットワーク図が浮かび上がる。
「スパイマスター。世界中で急速に悪化しているという、裏社会の状況についての報告を」
スパイマスターは、手元のタブレットを操作しながら、能面のような顔をわずかにしかめた。
「長官、事態は我々の想定を遥かに超える速度で悪化しています。ここ数週間、ダークウェブの深層フォーラムや、非合法な兵器市場において、通称『エイリアンテックラッシュ』と呼ばれる現象が起きています。もはや、単なる都市伝説やUFOマニアの噂話のレベルではありません」
彼は地図上の特定のポイント――東欧、中東、南米のいくつかの都市――を拡大した。
「最も深刻なのが、裏社会で『アポロンの矢』、あるいは『ヘリオスの欠片』というコードネームで呼ばれている、未知の指向性エネルギー兵器に関する情報の拡散です」
アルファの目が細くなる。
「単なる設計図の噂か? それとも実物が動いているのか?」
「……両方です」
スパイマスターの答えは、会議室の空気をさらに重くした。
「オリジナル、あるいはその中核となる破片を裏社会の何者かが入手したと見られます。そして、そこからリバースエンジニアリングされたと思われる『劣化コピー』……粗悪な模造品の設計図や、実際に組み立てられた実物が、ブラックマーケットのルートに乗って流通し始めているのです」
「馬鹿な!」
沈んでいたケンドールが、再び激昂して立ち上がった。
彼の科学者としてのプライドが、先ほどとは別の形で激しく傷つけられていた。
「我々セレスティアル・ウォッチでさえ、あのアンデスの箱を開けられず、実用的な指向性エネルギー兵器の個人携行レベルへの小型化には成功していないのだぞ! それを、どこの馬の骨とも知れないテロリストや、薄汚いマフィアのガラクタ屋が、我々以上のテクノロジーの断片を握り、あまつさえ模造品を作り上げているだと!? そんなことはあり得ない!」
「あり得ないことが、現実に起きているのです、ドクター」
スパイマスターは冷徹に事実だけを突きつけた。
「彼らの作っている模造品は、安全装置も冷却システムも理解していない、極めて不安定な代物です。だからこそ危険なのです。現に、東欧の非公認の実験施設と思われる場所で、原因不明の高エネルギー爆発が三件確認されています。地元政府はガス爆発として処理していますが、我々の衛星データは、明らかに地球の技術体系から外れたエネルギーの暴走を記録しています。彼らは、自分たちが扱っているものの威力を全く理解しないまま、手製の時限爆弾のスイッチを無作為に押しているような状態です」
アルファは、胃の奥が冷たくなるのを感じていた。
上空には、箱の扱いを間違えれば全てを無に帰すと警告する「神」がいる。
そして今、地上では、無知な愚者たちが神の火を盗み出し、自分たちの足元で火遊びを始めているのだ。
「我が組織が誇る『MK3規格』の監視ネットワークは機能していないのか? なぜ、そのような危険物の流通を水際で阻止できない」
アルファの詰問に対し、スパイマスターは珍しく悔しげに眉間を寄せた。
「長官、MK3規格のデジタル監視網は完璧に機能しています。しかし、対象がアナログすぎるのです。彼らはデジタルな通信を極力避け、設計図を分割して旧式の記憶媒体で物理的に運搬したり、暗号化すらされていないアナログ無線で符丁を使って取引の場所を指定したりしています。技術が高度になりすぎた我々の監視網の、まさに『死角』となるローテクな手法で、テクノロジーの断片がリレーされているのです。細分化されたアリの行列を、衛星からレーザーで狙い撃つようなもので、全容の把握が追いつきません」
都市が一つ、あるいは国境地帯が、明日にもテロリストの誤操作によって地図から消し飛ぶかもしれない。
その恐怖が、アルファの双肩に重くのしかかる。
セレスティアル・ウォッチは、地球を守る盾であるはずだった。
だが、その盾の向こう側で、内側から世界が燃えようとしている。
「……報告は以上か」
アルファが疲労を隠すように低く尋ねた時、スパイマスターが書類を一枚めくり、少しトーンを落として付け加えた。
「本筋の脅威とは少し逸れますが、欧州の支部から一つ奇妙な報告が上がっています。国際秘教団体『ヘルメス協会』が、地中海周辺、特にクレタ島の古代遺跡の地下で、大規模な発掘調査、あるいは何か古い遺物を探して嗅ぎ回っている形跡があるとのことです」
その報告を聞いた瞬間、張り詰めていた会議室の空気が、少しだけ緩んだ。
それは安堵ではなく、見下すような冷ややかな嘲笑によるものだった。
「ヘルメス協会、だと?」
スパイマスター自身が、鼻で笑うような音を立てた。
「あの、オカルトかぶれのヨーロッパ貴族や、スピリチュアルに傾倒した富豪どもの道楽サークルですか。放っておいて構わないでしょう。どうせまた、アトランティスの石板か、モーセの杖でも探しているんだろう。彼らのネットワークは資金力こそありますが、我々が相手にするような実体のある脅威とは無縁です」
ケンドールもまた、先ほどの苛立ちを紛らわせるように薄笑いを浮かべた。
「同感ですな。我々が直面しているのは、都市を消し飛ばす力を持った実体のある高エネルギー兵器の拡散危機です。神秘主義者の集まりが地下で唱える呪文や、星占いの結果など、今の合衆国の安全保障には何の関係もありません。そんなものにリソースを割くのは、愚の骨頂です」
二人の意見は、諜報と科学、それぞれの分野の専門家としての合理的な判断に基づいていた。
狂信的なカルトならともかく、ヘルメス協会はこれまでも歴史的な遺物を収集しては内輪で哲学論議に耽るだけの、無害な存在だったからだ。
しかし、オブザーバー・アルファだけは、完全には笑っていなかった。
彼の変調された音声の奥にある本物の喉は、微かに引き攣っていた。
彼の長年の経験と、数多の危機をくぐり抜けてきた直感が、背筋に冷たいものを走らせていた。
アンデスの「知識の箱」は、太古から地球に存在していた。
ならば、他の場所にも、彼らの理解を超える「何か」が眠っていても不思議ではない。
そして、あの見えざる「神」は言っていた。知識の箱には多くの「層」があり、それを開く鍵は必ずしも技術力だけではない、と。
(歴史や、文化、あるいは人間の持つ直感といったものが、思わぬ扉を開くこともある……か)
アルファの脳裏に、ティアナ・レグリアのあの謎めいた忠告が蘇る。
もしかすると、あのオカルト貴族たちは、我々とは全く別のアプローチで、何か致命的な「扉」に手をかけているのではないか。
アルファの内心に、黒い疑念が渦巻く。
彼らを徹底的に調査すべきだ。今すぐ実働部隊をクレタ島に送り込み、彼らの活動を全て白日の下に晒すべきだ。
だが、アルファはすぐにその考えを打ち消した。
今、目の前には「アポロンの矢」という、文字通り世界を焼き尽くしかねない実体を持った炎が迫っているのだ。
限られた予算、人員、そして時間。全てを同時に解決することなど、いかなる巨大組織であっても不可能だ。
指導者とは、常に切り捨てるものを選ばねばならない。
「……君たちの言う通りだ」
アルファは、自らの直感に無理やり蓋をして、氷のように冷たい声で裁定を下した。
「神秘主義者の遊びに付き合っている暇はない。今の我々の最優先事項は、何よりも『アポロンの矢』のオリジナルを所持している裏社会の元締めを特定し、その技術を我々の確固たる管理下に置くことだ」
彼はスパイマスターを鋭く見据えた。
「スパイマスター。君の部門の総力を挙げろ。実働部隊の投入、ブラックマネーを使った裏取引への潜入工作、必要ならば非合法な手段を用いた尋問も許可する。我々がまだ理解していない技術を、泥棒どもが自由に振り回している状況は、一秒たりとも看過できない。何としてでも、オリジナルのアーティファクトを我々の手元に確保しろ」
「承知いたしました、長官。直ちに部隊を動かします」
「……ただし」
アルファは、最後に付け加えることを忘れなかった。
「ヘルメス協会の動向について、監視の優先度は最低レベルに下げるが、決して記録を止めるな。彼らが何を探り、誰と接触しているか、自動収集によるログだけは回し続けろ。何事もなければそれでいい」
それは、彼自身の直感に対する、せめてもの保険だった。
分かっていながら切り捨てざるを得ない、指揮官としての苦渋のトリアージ。
この決断が後に致命的な隙となることを、今の彼は知る由もなかった。
「本日の会議はこれまでとする。各自、速やかに任務に当たれ」
ケンドールとスパイマスターが退出していく。
重厚な扉が閉まり、ロックされる電子音が鳴り響くと、最高会議室には再びアルファ一人だけが残された。
彼は、深く息を吐き出しながら、首元のネクタイを少しだけ緩めた。
誰もいない空間で、彼は変調器のスイッチを切り、ただの初老の男としての素顔を、ホログラムの青白い光の中に晒す。
円卓の上で、未だ解き明かされぬ「知識の箱」が、静かに回転を続けている。
アルファは、ズキズキと痛む胃の辺りを手で押さえた。
見上げれば、この星の空のずっと向こうに、自分たちの足掻きを「エンターテインメント」として消費する、正体不明の圧倒的な神が存在している。
そして足元を見下ろせば、自分たちの持つ力の恐ろしさも知らず、拾った神の火を無邪気に振り回して世界を燃やそうとしている、無知な愚者たちが蠢いている。
その絶望的なまでの板挟みの中央で、セレスティアル・ウォッチだけが、人類の覇権と安全を守るための薄氷を踏み続けているのだ。
「……我々が、やるしかないのだ。この星を、誰にも渡すわけにはいかない」
アルファの独白は、冷たい地下室の壁に吸い込まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
彼を押し潰そうとする重圧だけが、静かに、そして確実にその密度を増していた。
***
アルファが孤独な決意を固めていたのと同じ頃。
アメリカ大陸から遠く離れた、東欧の某国。かつて冷戦時代に建設され、現在は地図から抹消されている放棄された巨大な軍事掩体壕の奥深く。
湿気とカビ、そして安物の煙草の臭いが充満するコンクリートの空間に、不気味なオゾンの匂いが混じり始めていた。
放射線マークが掠れた防護服をいい加減に着込んだ数人の武装勢力の男たちが、息を呑んで「それ」を見つめている。
部屋の中央に無造作に置かれた鉄のテーブルの上には、車のバッテリーを何十個も直列に繋いだような巨大な電源装置と、そこから伸びる太く粗悪なケーブルが、黒い金属と水晶の欠片で構成された不格好な装置に、無理やり接続されていた。
それは、「アポロンの矢」のオリジナルから得られた断片的なデータを元に、彼らが独自に組み上げた「模造品」のプロトタイプだった。
本来備わっているべき冷却機構も、エネルギーの逆流を防ぐ安全装置も、そこには一切存在しない。
「ボス……本当にこれ、動くんですかい?」
若い男が、恐怖で震える声で尋ねる。
「黙って見てろ。この設計図を手に入れるのに、どれだけの血と金が動いたと思ってる。これが成功すれば、俺たちは世界の王だ」
顔に醜い傷跡のあるリーダー格の男が、歪んだ笑みを浮かべながら、手元の起爆装置のようなスイッチを握りしめた。
「出力、50パーセントで起動する。……スイッチ、オン」
ガチャン、という重々しい物理スイッチの音が響く。
次の瞬間。
ブゥゥゥゥン、という、耳の奥を直接引っ掻くような、聞いたことのない高周波の唸り声が掩体壕を震わせた。
粗悪なケーブルが限界を超えた熱を持ち、被膜が溶けて異臭を放ち始める。
そして、不格好な装置の銃口に当たる部分から、不安定に明滅する、暴力的なまでに眩い紫色の光が漏れ出した。
それは、地球の物理法則をねじ伏せるような、存在してはならない光だった。
男たちの顔が、その死の光に照らされ、歓喜と恐怖で引き攣る。
会議室で語られていた「危機」は、もはや警告ではなく、今まさに現実の脅威として、世界を焼き尽くすための産声を上げていた。
最後までお付き合いいただき感謝します。
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