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七番目の黙示録  作者: 凛月
第三章・忌むべき邂逅
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オルブレイア

 俺たち調査隊、改め、リーセル一行は最後尾の重い足取りに足を引っ張られながら、目的地であるオルブレイアの里へと向かっていた。


「……やっぱ、帰ろうぜ」

「まだ言ってんのかよ。なんために鍛えたと思ってんだよ」

「わあったよ」


 この三日、休憩時に権能の扱いについて説き、それと並行して対人戦闘の経験を積ませてきた。

 タルカスはプレイヤーの格付けで言うと、中堅上位の実力を持っている。この世界の住人の中ではかなり強い方だ。

 タルカスなら、一騎打ちに負けることはないはずだ。


「シエルはオルブレイアに行った事あるんだよな。どんなところだった?」


 ゲームでは数回訪れたことはあるけど、こっちでは初めてだ。少しは情報が欲しい。


「野蛮」

「お前が言うな」


 シエルに聞いたことが間違いだった。

 そう思いながらリーセルに目配せする。


「私が知っているのは外壁(・・)だけ、最後に中に入ったのも二百年前だし……結構様変わりしてると思うから、わからないと言った方がいいかな」

「二百年前って言ったら、魔王討伐の旅の途中か……。一回入れたんなら、出入りできても良いと思うんだけどな」

「二百年もあれば何度も代替わりするからね。私の事知っている人なんて誰もいないよ」

「……なんか寂しいな。それ」


 二百年の寂しさなんて分かりようがない。

 そもそもリーセルは二千年を生きる長命種だ。何度別れを繰り返したのやら……。


「ここまで生きると慣れたものだよ。私の方も大抵忘れるしね。まあ、ハルの事を忘れる頃はないだろうけど」

「俺って言うより、この先の体験だろ」


 黙示録なんて言う一回こっきりの体験。流石に忘れようにもないだろう。


「オルブレイアは、その足掛かり。頼んだぞ。タルカス」

「はあ……歴史の登場人物になるかもしれねえってのは、どうにもこっぱずかしいな」


 タルカスや、風脚の皆には黙示録について話せる分だけ話しておいた。

 ここまで連れてきて、何も教えないって言うのは不誠実だと、リーセルと話し合った結果だ。


「いいじゃねえか!俺は最高の狙撃手として載るんじゃね?」


 ホメロスは、調子よく銃を撃つ仕草をした。


「最高の狙撃手は俺の仲間だ」

「ああ……そりゃそうか……」


 皆に笑われながら、ホメロスは肩を落とす。

 こうして旅するのは悪くない。……あの頃を思い出すようで、少し寂しさはあるけど、それもあと少しの辛抱だと思えば気が楽になる。


「そこの一行。止まれ」

「来たね」


 誰かがこそこそと様子見をしていたのは、わかっていた。

 盗賊や野党の類ではない。この危険地帯を縄張りにする馬鹿はいない。居たとしても数日で淘汰されるだろう。

 だから、この声は。


「オルブレイア監視部のフルジスだ。身元を証明できるものを確認させてもらう」


 左胸に書かれた、オルブレイアの族紋を親指で叩きながら、半亜人の男性が声をかけてきた。

 族紋は部族の誇り。偽造すればこの森に居場所はない。この人物が真にオルブレイア人間であることの証明だ。


「特級傭兵、特級魔術師、リーセル」

「一級傭兵パーティー、風脚」

「見習い傭兵、ハル」


 順に身分証を確認していき、シエルの番になったのだが……。


「これの見張りは?」


 特級傭兵をこれ呼ばわり。出禁の人間に対する扱いが雑過ぎる。


「私……と言っておきたいところだけど、ハルに頼もうかな」

「ハル…この子供が?」

「言っておくけど、その子タルカスを瞬殺できるから」


 それを聞いた、フルジスの耳が一瞬ピクリと動いた。


「良いだろう。力の場へ案内する。ついてこい」


 正直、子供だと舐められるかと思ったけど、流石のオルブレイア、徹底的な実力主義だ。

 助かったとタルカスの顔を見ると、なんとも言えない表情をしていた。何かわだかまりのありそうな……そんな感じだ。

 なんとなく、帰りたくないといった理由がわかってきた気がする。

 フルジアについていくと、少しずつ外壁……「神樹の守護壁」が見えてきた。

 この壁は里丸々一つを囲う高さ二十メートルの木で出来た壁だ。

 木と言っても名前通りただの木じゃない。「不壊」の概念が付与された、人類を見守る神代の存在だ。


「久しぶりに来たな。ここ」


 案内された終着点。鬱蒼とした大森林で、唯一、草一本生えていない天然の土俵。

 「力の場」。里へ入るための見極めが行われる、決闘の場だ。


「この場の概要と決闘の掟は」

「大丈夫。何度も来ているからね」


 フルジスは小さく頷き、指笛を三回鳴らす。挑戦者を知らせる合図だ。ゲームの仕様もこうだった。

 しかし、指笛はもう一度鳴らされた。それもさっきより大きく、そして息が切れるほどに長い。


「見極めの”鳴らし”は三回じゃなかったっけ?」

「今回は特殊だ。……てっきり理解していると思っていたが?」

「ああ、わかっている」


 リーセルの問いにフルジスが答え、フルジスの問いにタルカスが答える。

 途端タルカスの雰囲気が変わった。



「離れろ」



 タルカスの呟きに合わせ、風脚の全員がタルカスの側から距離をとる。

 それと同時に、タルカスとうり二つの亜人が、タルカスの胸元目掛けて拳を突きたてた。音速を超えた拳と腕が衝突し、少し遅れて衝撃波が、周囲を震わせる。

 鼓膜に走った振動のせいで、少し立ち眩みしてしまった。


「随分な挨拶じゃねえか!愚兄!!」

「こっちの台詞だ。決闘前の攻撃は掟破りで追放刑だぞ」

「兄弟喧嘩に決闘もクソもねえだろうが愚兄!」


 現れたのは、オレンジの毛並みをした、野蛮で野性的なタルカスを兄と呼ぶ、男の亜人だ。

 瓜二つだけど、タルカスとは違い、タテガミが手入れされているとは思えないくらい荒ぶっている。


「はは!!子分連れて里帰りったあ、随分情けなくなっちまったなあ。愚兄」

「こいつらは子分じゃねえ。仲間と雇い主だ」


 いつものサラに御される、タルカスの面影がどこにもない。まさに一等級パーティーの団長を務める長の面構えだ。


「仲間だあ?……げ!破壊の化身!おめえ出禁っつったろ!何連れてきてんだあ!愚兄!」


 そう言って、シエルを指差す。破壊の化身……そこまで言われるほどの事をしたのかお前。


「ったっく……まあいい。バケモンが見てんなら問題ねえ。お前さん、しっかり見といてくれよお?」


 頭をぼりぼり掻きながら、片目で俺の事を見る。……バケモンってなんだよ。シャンズ以来だぞそんなこと言われたの。


「はあー……。うし。俺あ、オルブレイアが次期族長候補、力の場が主、グルカスだ」


 名乗りを上げたグルカスという亜人は、左胸にある族紋とその下にある、二つの紋章を叩く。


「ね、私には無理でしょ?」

「ね、じゃねえよ。つか名乗りくらいちゃんと聞け」


 ……確かに、あの速さだと魔術を展開する前に殴り飛ばされて終わりだ。

 しかし、ここまで強くはなかったはずだけど……かなりナーフされてたってことか。


「んでえ?代表は誰だ?そこのバケモンとは正直やりたくねえが……やるってんなら逃げやねえぜ」


 そう言いながら、瞳だけ動かし俺のことを見る。


「流石部族一の戦士だ。誇りは捨てないと……」

「おん?わかってんじゃねえか!」


 グルカスはがははと口を開けて大笑いした。


「ま、相手は俺じゃない。安心しろ」

「そうか!そうか!そりゃ命拾いした!んじゃ、誰だ?破壊の化身は出禁だ。だが、代表としてやるんなら話は別。やるなら相手すんぜえ」


 シエルに睨みを聞かせながら挑発するけど、当人は全く気にせず、俺の方を見ている。まるで指示待ちの忠犬だ。


「代表は俺だ」

「ああん?愚兄が代表だあ?何の冗談だっつの」

「冗談じゃねえ。俺がやるってんだ」


 タルカスは一歩前に出て、グルカスの目前に立つ。


「っは!挑戦者は拒まねえ!それが決闘の掟。死んでも文句言ううんじゃねえぞ。愚兄?」

「ごちゃごちゃうるせえ。さっさと準備しろ」


 グルカスは唾を吐き捨て、力の場の中心へと歩いていく、タルカスもそれに続く。


「タルカスの雰囲気。いつもと違うな」

「決闘は死ぬか敗北を認めるまで続くからね。それに、これはただの決闘で終わらない。グルカスはタルカスを殺す気でかかってくるはずだ」


 リーセルは、それがさぞ当たり前というように、淡々と語る。


「タルカス――オルブレイア族が直系。族長の第一子。元次期族長候補筆頭。元力の場が主。タルカス・オルブレイア……それを自ら手放し、里を抜けたタルカスの業……グルカスは族長候補として、この場でタルカスを罰しなければいけない」

「…………」


 察してはいた。契約書に書かれた本名を見た時に――でも確信はなかったし、そこまでの業を背負っているとは思っていなかった。

 どおりで、帰りたがらなかったわけだ。

 でも、今日それを清算しに戻った。

 それをみんなが望んで、タルカスは嫌々ながらも、ここまで足を進め、その舞台に立った――


「…………初めから教えてくれよ。俺だけのけ者じゃねえか」

「聞かれなかったからね。それにこれは言いふらすようなことじゃないでしょ」


 そんな風に言われたら、引くしかない。

 まだ出会って一か月経ってない。だけど、共に笑って、飯を食べて、技を教えた仲間であることに変わりはない。

 そんな奴が死闘をするというのに、見ているだけなんて歯がゆいにも程がある。


「タルカスは元より、負けるつもりであの場所に立ったわけじゃない。私たちはただ見届けるだけ。ハルはタルカスに技を与えたんでしょ?自分の弟子を信じてあげなよ。それとも、タルカスが負けると?」


 リーセルは挑発するように俺を見る。

 タルカスが負ける?

 そんなこと万が一も無い。

 それに――


「信じるよ。どうせなら、自分の弟子が最善の手を打つこともな」


 そう、この勝負には最善の手がある。

 打つべき手がある。

 打たなきゃいけない手がある。

 俺は今、それを感じ取った。


「タルカス!死んだら俺が骨拾ってやる!存分にやれ!」

「やっちまえ!団長!」


 俺たちの野次を聞いて、タルカスは口角を上げて牙を見せ、双剣を抜く。


「お願い……」


 サラはそう言いながら、両手を組み女神に祈る。

 バンジョウは信じて仁王立ちをし、ルークスはサラとはまた別の祈りを捧げている。

 そして、アルシュは俺の肘を強くつかんだ。深く被ったフードで顔は見えない。


「だ、大丈夫ですよね。団長、大丈夫ですよね」

「心配すんな。俺の弟子で弱い奴は一人もいない」


 アルシュの震えるを強く握る。握り返してきたその手は、弱弱しく、酷く冷え切っていた。




「見合い!!」




 決闘の監督役が力強く叫ぶ。




「力の場が主!グルカス・オルブレイア!」

「挑み通るが、タルカス・オルブレイア!」




 両者口上を叫び、構えを取り、睨み合う――





「部族の誇り、挑者(ちょうしゃ)が望み。我ら神樹(セフィール)の誓いに法り、決闘を承認する。始まりの笛。鳴らせ、よーし!」



 監督役の宣言から一拍置いて、指が唇に近づき――




『ピイイイイイイイイイイーーーーーーーー』





 笛が鳴らされ、決闘が幕を上げた――

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