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七番目の黙示録  作者: 凛月
第三章・忌むべき邂逅
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きせい

ST.954 『シャンデラ大陸・メリア神聖国・フルフレイヤ大森林』


 大森林へと足を踏み入れた俺たちは、陣形を組みながら進む。

 陣形を組んでいると言っても、まだ浅部だからあまり緊張感はない。

 シエルを先頭に、時点に俺とリーセルとアルシュ、風脚の面々は後ろに付いている。

 アルシュは魔術の話をするため、俺の隣?だ。一応陣形に支障をきたさない程度だけど、物理的に距離を置かれている。


「魔力回路の方は順調か?」

「す、少しづつで、ですけど、でで来てると、おっ思います」


 アルシュには、魔力回路の構築をさせている。

 アルシュのつかう魔術は、構築した魔術陣を空中に展開し、それに魔力を流すことで行使するという、空間設置型のものだ。

 この魔術には、頭の中にある魔術陣を描く(構築する)工程がある。それを応用することで、アルシュは魔力回路の構築のコツをすぐにつかんだ。

 シャンズも勘は良かったけど、アルシュはその比にならない程の構築速度だ。まあ、アンリには敵わないけど。


「そうか。ここにシャンズがいればもっと効率よく構築できるんだろうけどなあ」

「しゃ、しゃシャンズさん…の魔眼はそんなに凄いんですか?」

「識別の魔眼は、あらゆるモノの情報を視覚で認識できる――らしい。本人も口では説明できないってさ。たぶん、見えてる世界が違うんだろうな」

「そそ、そうなん、ですね」


 アルシュとの雑談や、講義は中々に楽しい。たまにリーセルも交えて、知識の幅を広げている。あとは、もう少し、距離を縮めて欲しいものだ。


「アルシュは、どんな権能が欲しい?」

「え、あ、えーと……」


 アルシュはひとしきり悩んだ後、


「ぼ、防衛系統のモノ…が、いいいです。わた、わたし、は細かい魔力操作が苦手なので……攻防の両立が難しいで、です。おか…しい、ですよね。……ま、魔術師なら、できて当然……なの、に」

「両立が出来ないのは別におかしくはないと思うぞ。現代魔術は”守られている”という前提で発展してるからな」


 銃という魔道具が発明されてから、現代魔術は、火力重視の固定砲台型に重きを置かれ始めた。だから、攻撃魔術を主にする今の魔術師たちは、自衛能力が極端に乏しい。

 シャンズが使うような、歴史のある流派には、攻防一体の体系は存在するけど、それを身につける魔術師もだんだんと減ってきている。と、シャンズが言っていた。


「アルシュの魔術は完全に砲撃型――確かに自己防衛の手段があった方がいいけど、風脚の構成的に攻撃魔術を扱えるほうがいい。ま、魔力回路が出来上がれば、身体強化を瞬時に発動できるし、今は魔力回路に集中しよう」

「わ、わかりました」


 アルシュは両手で杖をぐっと握りしめる。彼女なりの気合の入れ方だ。


「おかしいといえば、アルシュは扱える魔術の数と魔力操作が噛み合ってないよな。普通は使える魔術が増えるとともに、魔力操作の技術も上がっていくはずだけど……」


 普通なら、知っていても魔力を使わないせいで、魔力量が足りずに発動しない。魔力総量は、魔力を消費……つまり魔術を使うほど増えていき、それと同時に魔力操作の技術も上がっていく。覚える魔術も同じく学んでいくはずだ。

 莫大な魔力総量は、おそらく生まれながらのモノだろうから置いておくとしてもだ。アルシュの知識量は、常識を遥か大きく超えている。


「そ、それは……あの…そ、その……」


 アルシュはその問いに、フードの先を指で掴んで深く被り、拒絶するように顔を隠した。


「いや、言いたくないならいい。踏み込んでごめん」

「い、いえ。……ハルさんに、わる悪気がないのは、わかってますから」


 そういって、フードから指を離し、顔が少し見える程度まで戻す。嫌われるほどではなかったみたいだ。

 アルシュの心の周りはまるで地雷原のようで、近づく事すら難しい。一度踏み込めば連鎖的に爆発して、二度と話してくれなくなるんじゃないかと思えるほどだ。いったい、除去にどれだけかかるのやら……。


「ッシ。魔獣の匂いがしやがる」


 雑談もそこそこなところで、タルカスが足と止め、姿勢を低くした。


「上に行く」


 そう言って、ホメロスが木々の側面を足場に、跳ねるように上を目指す。

 バンジョウとサラ、タルカスがルークスを囲むように陣形をとった。

 普通なら、ルークスの側にアルシュもいるハズなんだろうけど、アルシュは俺の隣で杖を構えている。


「行動が早いな。これが一等級のパーティーか」

「一般的で、模範すべき陣形の組み方だ。まあ、まだ浅部だから、ここまでする必要はないんだけどね」


 リーセルはすまし顔で、トランクを地面に置きそれを椅子代わりに座る。


「だな。大規模侵攻でもあるまいし」


 俺もリーセルを見習い、トランクを置きその横に座った。椅子にしたら師匠に何を言われるかわからない。


「斬って来ようか?」


 シエルは、飄々と武器を親指でつつきながら、俺に指示をあおった。


「動くほどでもなさそうだし、見物でもしとこう。俺たちの出番は深部に入ってからだ」

「え、えっと。あ、どうしよう」


 アルシュは、まだ風脚に加入してから日が浅く、戦闘経験も指で数える程度だと聞いている。

 経験を積ませるのもいいけど……。


「アルシュも見学だ。風脚の連携をしっかり見て、自分がどう動くべきか見極めるんだ」

「は、はい」


 アルシュは構えていた杖を地面に立て、穴が開くほどの視線を風脚に向けた。


「ハルのパーティーはどうだったの?」


 と、唐突にリーセルが口にした。

 アルシュが近くにいるけど……別にこれくらいなら話しても問題ないか。


「ほとんど、有って無かったようなもんだ。結局全員好きなように動くし、俺らにはそれが性に合ってたからな。それに、そもそも戦う相手の格が違う」

「何と戦っていたの?」


 シエルは、ウズウズとしながら俺の返答を待っている。……こいつ、どこぞの姫と同じ人種なのかもしれない。


「比較的に魔族が多かったな。あとは、竜か」

「そうなんだ……会えるのが楽しみ」


 シエルは、仲間が廻り者という事を知っている。だから、今の話が真実だと疑わない。リーセルもそうだ。

 だけど、ただ一人、理解できていない人間がそこにいる。


「ま、まぞ?り、りゅう?」


 何を言っているんだこの人たちは、と言わんばかりに、アルシュが口をパクパクとさせてていた。


「気にすんな。こっち(ゲーム)の話。話す時が来たら話すよ」

「え、あ、はい。わかりまし――

「リーセル!そっちからくるぞ!!」


 アルシュの言葉を遮り、ホメロスがリーセルの後方を指差し、大声で叫ぶ。

 それに少し遅れて、地鳴りのような音が響き、足元が震えはじめた。


「足音的に、一体だな」

「ハルがやる?」

「リーセルに言ってたし、リーセルがやればいいんじゃないか?」

「それもそうか」


 そう言ってリーセルは、虚空から杖を出現させ、地響きのする方へ向け、魔術を放つ。

 すると、地鳴りのような足音は止み、その代わり木をなぎ倒しながら、巨大なイノシシに似た魔物が目の前に滑りこんできた。


「なんだ。魔獣じゃないじゃん」

「ロッタだ。こいつは腹の肉が美味しい」


 シエルの腹が特大の音を鳴らした。この巨体の半分は軽く平らげそうに聞こえる。


「おいおい……一撃かよ。これじゃ、俺たち立つ瀬なしじゃねえか」


 そう言いながら、タルカスが頭をぼりぼりと掻きながら近づいてきた。


「魔物を魔獣と間違えた、馬鹿鼻の言うセリフじゃないと思うけど?」


 リーセルの冗談に、タルカスは小さく、うるせえとボヤキ、巨体を見上げた。


「おかしいな。ここまで近づいても、魔獣の匂いしかしねえんだが……」

「これが、リーセルの言う大森林の異変ってやつか?」


 リーセルに問いかけるけど、反応はなく、じっと魔物の死骸を見つめている。


「匂いが違う……ね。少し調べようか」


 タルカスの鼻をバカにしつつも、否定はしない。亜人の、それもタルカスの種族はその性質上、非常に鼻がいい。

 だから匂いの違和感を取り除くため、リーセルは俺たちに指示を出し、当初の目的でもある魔獣の調査を始めた。

 全身をくまなく調査した結果、違和感の正体を探り当てた。


「匂いの正体はこいつか……」


 魔物の腹を割いたところにそれは在った。

 種のような見た目で、血管に擬態するかのように、触手を伸ばしている。


「寄生系の魔獣……まさか現存していたなんて……。これは厄介なことになりそうだ」

「寄生…?」


 ゲームには出てこなかったタイプの魔獣だ。いや、発見されていなかっただけの可能性も……。

 どちらにせよ、未知の魔獣だ。警戒しないと。


「この手の魔獣は生物に寄生して、意思を乗っ取るんだ。宿主の活動が停止……死亡すれば、次の宿主を求める。現に私たちに触手を伸ばしてきてるでしょ」


 芋虫が歩む様な速度ではあるけど、着実に一番近くにいるリーセルへと触手を伸ばしている。

 リーセルはそれの種……核に向かって短剣を突き立てる。すると、魔獣は力なく触手を地に落とした。


「この通り、魔獣自体は凄く弱いんだけど、その性質が厄介なんだよ。宿主に子が出来ると、分裂して増える。際限なくね」

「つまり、生殖能力が高い魔物に寄生したら、加速度的に魔獣と化した魔物が増えていくってことか。厄介って物じゃない。下手したら大陸全土を巻き込む大災害になるんじゃ……」

「その心配はいらないかな。これはあくまで魔獣だ。小型の魔獣は、生出したモノから離れると死滅する……あっちじゃどうだか知らないけど」


 リーセルの言うあっちは、ゲームの世界の事だろう。

 ゲームは界異の影響が強すぎて、大陸全土に魔獣が存在した。

 魔獣の存在理由はこの世界を己が世界の手中に収めることだ。無制限に魔獣が湧くなら、寄生型の魔獣を創り出す必要はない……だから、ゲームには存在しなかった?


「何はともあれ、”魔獣”増加の原因がわかったのは不幸中の幸いだ。魔獣が大森林の中に潜んでいる謎も解けた。あとは、当初の目的を果たすだけ」

「おい。当初の目的ってなんだ?依頼は魔獣の調査のはずだろ」


 リーセルがスカートの土を掃いながら立ち上がる途中、タルカスが不意に口を挟んだ。


「……リーセル?」


 リーセルの方を見ると、あからさまに目を逸らしていた。

 これは第三者の俺が聞くしかないな。


「依頼内容の詳細は?」


 タルカスはサラに指示し、背嚢の中に入れてあった契約書の控えを取り出させた。


「ほらよ」

「どれどれ」



 第一種護衛任務。

 期間

 大森林で起きている、魔獣増加の原因を調査、解明する迄。

 依頼料

 前金一人頭、一千万リアン。日当一人頭、五十万リアン。その他、必要経費は依頼主が受け持つ。

 依頼完遂で、一人頭、二千万リアン。

 尚、撤退は各自の判断に委ねることとする。依頼主が撤退と判断した場合、完遂時の報酬は発生せず、護衛日数に応じた金額を報酬とする。

 依頼主が死亡、もしくは意識不能、自己喪失となった場合。報酬は支払われない。


 追記、任務遂行中に死亡が確認された場合。遺族または所属パーティーに、一億リアンの弔慰金を支払うものとする。なお、これは冒険者組合人事統括を代行者として、依頼者の口座から支払われる。



「……確かに依頼は完遂してるな。これ以降の随行は風脚次第か」

「ソダネ」


 リーセルは、これからどうしようという風に、明らかに落ち込んでいる。


「トリアエズ、依頼完了ネ」


 そう言って契約書の控えに自分の血を垂らし、刻まれていた契約魔術を発動させる。これで、風脚を縛るものは無くなった。


「まさか、深部に入るまでに片が付くとは思わなかった……私の数十年は何だったんだろ……」


 魔獣ばかりに目が行き、魔物を全く気にも留めていなかった結果がこれだ。少し可哀そうに思えるけど、こればっかりは自業自得。長寿の知恵も行き過ぎると、狭まるという訳か。

 しかし、こうなると、オルブレイアで戦うはずだったタルカスが離脱することになる……。

 俺が戦うのは全然ありなんだけど、相手にされるかが問題だよな。


「さーて。お前ら撤収だ、撤しゅ――いででででで」

「待ちなさい」


 タルカスがさよならと来た道を戻ろうとしたその時、サラがいきなりタルカスのタテガミを無理やり引っ張り、歩みを止めさせた。


「何すんだ!」

「全く……依頼抜きにしても、ここまで来て引き返す訳ないでしょ?」


 サラは呆れた顔で、立ち止まったタルカスのタテガミから手を離す。


「そうだぜ、団長。腹くくれよ」

「ホメロスの言う通りだ。大の大人が今更臆するのは恥なこと……」


 ホメロスとバンジョウも、サラに便乗し、タルカスに言葉をかける。


「団長の件に関わらず、アルシュもまだ教わりたいことがたくさんあるようですし……仲間を置いて行くのは、風脚の意義に反しますよね?」


 ルークスも同意し、アルシュはブンブンと、首を縦に振る。

 リーセルと、シエルも何かを察しているようで、この場で何も知らないのは、どうやら俺だけのようだ。


「なんの話だ?」


 それを聞いて、その場にいる全員の視線が、お前の口から言えとばかりに、タルカスに集中した。

 そして、タルカスは大きく息を吐き、肩を脱力させながらぼやいた。


「……俺の故郷なんだよ。オルブレイア」


 御年三十一歳の厳つい顔の一流傭兵は、どうやら、里帰りが嫌らしい。

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