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七番目の黙示録  作者: 凛月
第三章・忌むべき邂逅
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旧知の仲

 鼻歌交じりに広場に向かうと、風脚の全員が既に集まっていた。


「おうハル。遅かったな」

「待たせてすまん、色々あってさ」


 一応遅刻したという訳ではないから、皆苛立っている様子はない。そもそも正確な時間なんて、広場にある大時計でしかわからないから、多少遅れたところで問題ないだろう。現に、リーセルがまだ来ていない。


「リーセルは?」

「さあな。あいつの時間指定なんて当てにならねえ。あいつの二時間は、エルフにとっての二時間だからな。まあ、暗くなる前には来るんじゃねえか?」

「用事もないのに遅れたりしないよ」


 そういって、リーセルは馬車の中から顔を出した。既に乗り込んでいたみたいだ。


「お前……居るなら声かけろよ」

「え?気づいていたでしょ?」」


 リーセルは、そっとホメロスの方を見た。


「おう。居ることは知ってたぞ?」


 飄々と言うホメロスに、風脚の皆はため息をついた。


「まあ、聞かなかったからしょうがねえわな」


 ホメロスは、すまんすまんと平謝りをする。それを見る皆はやれやれと言った風だ。

 ホメロスが天然で皆を振り回すことは日常茶飯事。しかし、大事になることはそこまで無いという事だから、注視して心配することでもないだろう。

 と、そんなことよりも。


「リーセル。ちょっと手を借りたい。皆も少し時間くれるか?」

「良いぜ。待つことには慣れてっからな」


 リーセルは心外だ、と愚痴をこぼしすけど、エルフだから仕方がないと、甘んじて受け入れた。


「それで、手を借りたいって、何か揉め事でもあったの?」

「そんなとこだ。証の事でちょっとな」

「そう。私にできる事なら協力するよ」


 リーセルは、俺が証を持っていることを知っているし、これが何なのかも、師匠から詳しく聞いている。

 風脚の皆は何のことだか、という顔をしているけど……然るべき時に説明すればいいだろう。




「ここだ」

「……衛兵の詰め所」


 リーセルと共に詰め所に到着すると、律儀に正座のまま待機しているシエルの姿があった。

 確かに待ってろとは言ったけど、正座ぐらい解いてもよかったのに。


「思いのほか早かったな。その方が君の雇い主かい?」

「そうです」


 リーセルは特級の傭兵だと言っていた。シエルを管理するのに、最も適した存在だろう。


「揉め事の原因はお前だったのか。シエル」

「その声……リーセル様」


 シエルはぽかんとした顔で、リーセルを見ている。


「知り合いだったのか?」

「二、三度、同じ依頼を受けたことがあるんだよ。久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「リーセル様も」


 リーセルの久しぶりとは、何年前だ……?どうやら、シエルも長命種のみたいだ。耳は普通だし、エルフではなさそうだけど。


「再会の余韻に浸るのも結構だが、こちらの仕事をしても良いだろうか」

「ああ、すみません」

「では、傭兵登録証の提出を――…と、特級…!?」


 リーセルの登録証を見て、衛兵は椅子を倒しながら立ち上がった。


「し、失礼。何せ初めて拝見するものでね。つい、興奮してしまった」

「特級は数が少ないからね。驚くのも無理はないよ」

「数が少ない……か。ああ、一応確認の為、顔を見せてもらっても良いだろうか」

「わかった」


 リーセルは被っていたフードを取って、顔を見せた。


「エルフ……はは、私は今日という日を生涯忘れられそうにないよ。確認は終わった、もう顔を隠してもらって結構だ」


 そういって、傭兵は何かの用紙に記入を始め、最後に懐からハンコを取りだし、承認と言いながら用紙に押し付けた。

 インクも何もつけていないのに、しっかりと印が押されている。魔道具か。


「これが一時武装許可証だ。この街でしか使えないから注意するように」

「ありがとう。それじゃ、邪魔したね」


 リーセルはそう言って、詰め所からそくささと出て行った。


「シエルも行くぞ」

「わかった」


 衛兵に一礼だけして、俺たちもそのあとを追う。


「リーセル。何をそんなに急いでるんだ?」

「詰め所とか、衛兵にいい思い出がないんだよ。長く生きていると、知らない内に法律とか、条令とか変わったりしてさ……」

「同意」

「長命種ならではの悩みだな」


 今回の件もそれで――…ではないか。原因はシエルが色々と掏られて起きた事件だから、何時の時代であっても、衛兵の世話になっていたに違いない。


「それで、今回は何をやらかしたの?」

「大切なものを入れたカバンを掏られた」


 そういえば、リーセルに色々説明するの忘れてたな。


「身分証も、傭兵登録証も、金も掏られたらしいぞ」

「別々の場所に入れておけって言ったのに……」

「ごめん……」


 シエルは背中を丸めて落ち込んでいる。今回は、って言ってるし、これまでも何度か同じような事をやらかしているみたいだな。

 ……戦力にする以前に、問題を起こさないよう注視しておく必要がありそうだ。


「とりあえず、組合に行って傭兵の再登録だけ済ませようか。シエル。貯金くらいはしているよね?」

「……さあ?」


 それを聞いたリーセルはそれを見上げた。

 登録証の再発行には、金がかかる。勿論馬鹿にならない額だ。


「ハル。このバカは置いていこう。戦力にするには申し分ないと思ったけど、これはダメだ」

「すまん。そういう訳にもいかないくてさ……」

「私はハルについていく」


 シエルは俺の背後に周り込み、俺の肩を両手でガッシリと掴んだ。


「誓約の証を使っちまった。……というか、使われちまった」

「宣言の方……か」

「そんなところだ」


 リーセルはシエルの方を見て、ため息をついた。


「後先考えずに行動するのは、変わっていないようだね。それで、何を宣言したの?」

「一度だけ、ハルの為に剣を振る」

「私はそんなことをするために、誓約の証に付いて教えた訳じゃないんだけどね……」


 使い方を教えたのは、リーセルだったのか。


「お前は先祖返りなんだ、その力を悪用されないように、気を付けろって言ったでしょ?」

「でも、ハルは悪い奴じゃない」

「そうだとしても、今日あった人間を信用するのは、聊か早計だ」

「ハルからは、女神の匂いがする。だから大丈夫だと思った」

「女神の……?」

「え、俺、何か匂う?」


 初めて聞く単語だ。師匠からも聞いたことがない。

 何か重要なものだとは、直感でわかるけど、これは多分神代の情報だ。俺が聞いてもいい話なのか。


「うーん。シエルがそう感じるなら、事実なんだろうけど……」

「その女神の匂い?ってのは何なんだ?」

「気配……のようなものだと知っておけばいい。その者たちは互いの存在を認知するらしい。沈黙曰く、女神に近しい存在に悪人はいないというし……ハルはシエルに何か思うところはある?」

「特に何も?」


 ポンコツだとは思うけど、それは絶対に関係ない。


「うーん……シエルだけが感じるというのには違和感を覚えるけど……ハルが悪人だという事はないし、今回はシエルの直感を信じてあげる。今後は気を付けるように」

「わかった……」


 リーセルとシエルを見ていると、なんだか親子のように思えてきたな。

 ……女性に年齢を聞くのは失礼と言われているけども、シエルはそんなこと気にしなさそうだし……。


「リーセルが二千年生きてるってるのは知ってるけど、シエルはどれくらいなんだ?」

「えっと……生まれが開暦(かいれき)千四百年くらいだから……三百歳くらい?」


 リーセル程じゃないけど、思ったより長生きしてんな……。


「長命種だろうとは思ったけど……種族は?」

「……雑種?」


 んな犬見たいな言い方……。別種族同士が交わることもあるだろうけどさあ。


「シエルの父親は海精と妖精の血が、母親の方は森精と亜人の血が流れている。別種族同士だと、子が産まれることは珍しいんだけど、その壁を乗り超えて生れたのがこの子だ」

「という訳」


 リーセルの話を聞くに、奇跡の子――そういってもいいくらい、天文学的確率で生れてきたみたいだな。

 種族がわからない程、血が混じっているから”雑種”。

 見た目は只人にしか見えないんだけど、これだけの種族が交わってたんなら、先祖の只人の”先祖返り”って線が濃厚か……。


「……だったら、シエルは誰の先祖返りなんだろうな。つか、先祖返りかどうかなんてどう判別すんだ?」

「沈黙に教わらなかったの?」

「悪人はいないって事しか教えて貰ってない……」


 師匠は魔術のこと以外、ほとんど教えてくれなかったからな……。


「沈黙らしいと言えば沈黙らしい……。先祖返りには特殊な権能が備わっているんだ。大体はそれでわかる」

「大体……?」

「下位互換が存在するから、間違える事もあるんだよ」


 魔力も魔素も必要としない、神が人に授けた力――それが権能だ。

 ゲームでも世話になった。一人につき一つだけにもかかわらず、変更不能という、なかなり扱いが難しい仕様だったのを覚えている。


「神が子に与えた八つの権能。「武装玩具」「魔漿幻躯(ましょうげんく)」「未来予測」「死屍啜血(ししてっけつ)」「宝具錬成」「因果必中」「溜力(るりょく)解放」「守護領域」。それのどれか一つを持っているのが先祖返りの証だ」


 ゲームに出てこなかった八天使の情報……。名前だけもヤバそうなのが揃ってるな……。

 ん?いや、待てよ。


「死屍啜血……俺の仲間に、その権能持ってやつがいるぞ」

「……!?」

「俺と同じ廻り者で、サクヤって言うんだ。もうすぐこの世界に来る」


 死屍啜血。自身が倒した生物の血液を吸収し、身体能力を大幅に上昇させる権能――。

 オリオンのメインアタッカーであるサクヤが、絶命姫(ラストアタッカー)の忌み名を持つきっかけになったものだ。

 どうやってその権能を取得したのか……頑なに教えてもらえなかったけど、まさか八天使に関わるものだったとは……。マジでどうやってとったんだよ。


「廻り者……この世界の理から外れた存在だとするなら、保有していてもおかしくない。先祖返りの力が本物なんだとしたら、かなりの戦力にはなるね」


 権能の他にも、サクヤにはあの武器(・・)がある。ゲームのシステムがどこまで反映されるのかわからないから、正直生死がかかったこの世界で使ってほしくはないけど、俺のいう事を聞いてくれるかどうか……その辺は会ってから話そう。


「正直、神の八権能については、ほとんど文献頼りなんだ。現状、権能の力がわかっているのは、溜力解放と未来予測だけ……その他は権能名くらいだ」

「シエルの権能はどっちなんだ?」

「溜力解放。日頃溜めてる力を解放して、威力を上げる。力加減もできる」


 シエルはピースしながら、淡々と自分の力について話す。


「ハルの命令があれば、宣言通り振る。威力も思うがまま」

「……全力でって言ったらどうなるんだ?」

「わからない。試したこと、ない」


 リスクがわからない力を振るわせるとか……使い時は考えないとな。


「未来予測の方はどうなんだ?」

「夢で見たことが現実に起こるんだ。自己制御は不可。神からのお告げみたい……って言ってた」

「本人と面識があるのか」

「千年程前だけどね。アルヴァンがまだ聖国って呼ばれていた時代だ。その権能が発現してからすぐ、聖女として祀り上げられて、ほとんど軟禁状態だった」


 予知能力って言うのはどんな時代でも、偉い人から狙われる運命なんだな……。


「って、千年前ってことは、現状存在してないかもしれないってことか」

「そうなるね。確認できているのはシエルただ一人だ」

「そっか。師匠は、多く生れているって言ってたんだけどな」

「沈黙がそんなことを」

「魔力の流れをみてって言ってたから、普通の人間じゃ見つけるのは難しそうだな」


 そういう魔眼を持っている人を探すことも視野に入れておくか。ただ、師匠レベルじゃないと無理と言われればそれまでなんだけど……。


「先祖返りには私も興味がある。大森林の調査が終わったら、私も独自に調査してみるよ」

「一緒に旅はしてくれないのか?」

「戦力集めは分担したほうがいいでしょ」


 確かに効率は段違いか。リーセルだけの情報網もあるだろうし、そこは任せよう。


「情報は逐一、調査隊の拠点に送るから、定期的に見に来るといい」

「それはありがたい。てっきり、大森林の調査が終わったら、あそこは引き払うと思ってたけど」

「あそこは一応私の持ち家だからね。これからも使いそうだから奇麗にして、使用人も雇うとしよう」

「あれ、持ち家だったのか……」


 確かに、今のままだと幽霊屋敷だもんな。

 なんてことは、口に出さないでおこう。


「さて、組合についたことだし、さっさと用事を済ませてみんなと合流しようか」


 組合での用事はすぐに済んだ。

 驚いたのはシエルも特級の傭兵だったことだ。

 そして、口座には開いた口が塞がらないほどの金が入っていた。世界中を旅して回っていたら、いつの間にか溜まっていたらしい、

 曰く、娯楽が食事くらいだから、あまり使わないそうだ。


「それじゃ、いくよ。ハル、今何時?」

「十五時だな。一時間遅れってとこか」

「そう。あの子の機嫌が悪くならないように、さっさと行こうか」


 俺たちは小走り気味に広場へと向かった。

 特級傭兵のシエルが仲間に加わると知ったら、皆喜ぶだろう。

 日常生活に不安はあるものの、戦力としてこの上ない傭兵だ。

 どんな顔をするのか、そんな思いを心の内に秘めながら、広場に到着したその時、タルカスが一番に声を上げた。


「げ!なんであんたがここにいんだ!?」

「あ、久しぶり」


 どうやら、二人は知り合いだったようだ。しかも、ちょっと訳ありの……。

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