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七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章・辺境の魔術師
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パライン防衛戦線2

 大型魔獣が増え続ける一方、迎撃にあたるこちら側の戦力は大きく動揺し、士気は下がり始めている。


「魔獣を生み出す魔獣なんて聞いたことねえぞ!」

「俺も見たことない……でも、何とかしないと」


 これまで何万と魔獣を見たことがあるけど、魔獣を生み出す魔獣なんていなかった。魔獣は界異から生まれるもの――これもゲームとの差異か?いや、シャンズすら知らないってことは、新型とみたほうがいいな。

 超大型はさっきと打って変わって、八本の首を振るいながら進行を開始した。

 あれの相手が出来るのは俺だけ……大型の相手は任せたいけど、数が多すぎるし、まだ増え続けてる。腰が引けている時に戦えば、逆に危険だ。でも、このまま放置すれば侵攻方向にある町は壊滅する。


「……宝具を使う。今はそれしか方法がない。シャンズはオベルクさん達に強化魔術の説明をしてくれ」

「すまん。まかせた」


 眉をひそめ、悔しそうな表情をするシャンズは、後方に走って行く。

 シャンズには宝具がどんなものか伝えてある。魔術師であるシャンズの話を聞けば、傭兵たちは首を縦に振ってくれるはずだ。俺はそれに全身全霊で応えよう。

 魔術書をベルトから外し手に取り、ありったけの魔力を込める。際限なく籠められる魔力に反応し、魔術書は手から離れ少し浮いた。

 師匠の魔術に対して使った時のような、静を欠いたような詠唱ではなく、言葉一つ一つに魔力を乗せて……


「宝具開典――これは数多なる旅の記憶。その目は遠くを望み、その足は疲れを知らず。かつて、彼方を求めたその渇望よ、私を導きたまえ――『終わりなき旅(ウル・ラ・クファ)』」


 宝具――賢王の書。師匠が魔術付与として名付けた、真名『終わりなき旅《ウル・ラ・クファ》』。十二の術式が物語形式に刻まれたこの魔術書は、発動直後からどんな魔術、技能、権能(スキル)でも性能が二乗になるという馬鹿げた性能の宝具だ。

 ただし、使用中は常に魔力が放出状態になる為、魔力欠乏を起こして死に至る可能性がある。

 俺が現在維持できる時間は十分間――。


「ハル!いけるぞ!」


 シャンズの声とほぼ同時に強化領域を展開。それに合わせて、傭兵一人一人にバフを盛り、魔獣に減速と重圧の魔術を仕込む。

 宝具の発動中は、魔術書が魔力源になるから「魔術に必要な魔力」を考える必要がない。出し切らなければ損だ。


「『強化』」


 増え続ける大型魔獣を、超強化され狂戦士と化した傭兵たちは、木っ端のように散らしている。こっちはこの分だと問題ない。

 問題はこの超大型だ。首が八本の怪物と言えば、八岐大蛇やヒュドラを思い浮かべる。泥酔させて殺せれば楽だけど、こいつにそれは通用しない。


 九分――


 首は落としてもすぐに再生。伝説通りに傷口を燃やして再生を止めるという手を使えない程の速さだ。しかも、絡まる事などを厭わないというような、首を使った鞭のような攻撃が連続して襲ってくる。幸い師匠の魔術の方がよっぽど厄介だ。こういうのも予想して修行をつけてくれてたんだろうか。


 八分――


 こうして殴りまくってる間にも、大型魔獣は生まれ続けている。限界を超える前にこいつを倒さないと……。何か解決の糸口はないか?


 七分――


 苦戦している最中、俺はあることを思い出した。

 再生する敵なら、粉微塵にすればいい――と師匠が言っていたことに。馬鹿な話だと笑って、雷を落とされたのを覚えている。


「一か八か……迷ってる暇はないな。皆、少し下がって!」


 今の魔術出力は二乗。生活魔術でも攻撃手段として通用する。だけど、操作に関しては完全に力任せ。絶対に周囲を巻き込んでしまう。シャンズの指示を聞き、傭兵たちは魔獣を牽制しつつ、全速力で散っていく。

 粉微塵……この場で最適な魔術は――


 六分――


「竜もどきのすりおろしだあああああ!!!」


 効果は覿面。発動した魔術により、竜もどきが再生する余地も与えられず、一瞬にしてすりおろした大根のようになった。

 

 五分――


「師匠の言ったこと覚えててよかった……。いや、無理やりにもほどがあるけど」


 ヘドロがあるせいで、スライムのように見えなくもない。くすんだ紫色だから妙に毒々しけど、身体に影響はないから後処理もどうにかなりそうだ。

 大型魔獣が生れるのも止んだようで、後ろを見ると傭兵たちが勝鬨を上げているのがみえる。数十体はいたはずだけど、それを瞬く間に討伐するなんて、この世界の傭兵も捨てたもんじゃないな。


「あとはこれの処分をどうにかし―――!?」


 宝具の発動を解き、後処理の方法を考えようとまた魔獣の方を見ると、そこには何も残っていなかった。周りを見ると大型魔獣や、さっき蹴散らした魔獣の死骸もどこにもない。


「何が起こって……いや、この世界じゃ魔獣は討伐したら消え去るとか――」


 そう思いこもうとした最中、勝鬨は動揺へと変わっていった。やっぱり普通じゃない。


「シャンズなら何か見えるかもしれないな。少し……なんだこれ」


 強化領域を解除し、魔術陣が消えたはずの地面に、見覚えのない別の魔術陣が残っている――。


「持続性の術式じゃない……時間差でもないな。いや、まずこの魔術陣誰が……」


 師匠のおかげで魔術陣に対する知識は、専門家といっても過言では無い程に精通している。覚え違いもないし、見違うことも無い。


「なんの術式だ……?これがこう構成されてて、こっちがこう繋がって……!これ、もしかして神代の魔――」

「ハル!避けろ!」

「!?」


 シャンズの大声と共に俺は横に思い切り飛んだ。

 俺の立っていた位置は、地面が割れ魔術陣もなくなっていた。その代わりに人型の”なにか”が地面に拳を突き立てている。


「リ…ア………メ……ス。コロ……メ…ア、アアアアアア!!!」


 竜のような翼に、右寄りに生えたツノ、蜥蜴のような細い尾のそれは、怒り狂ったように叫び声をあげた。


「な、何でこんなところに魔族が……」


 シャンズは怯えながらも、町だけは守ると臨戦態勢をとる。オベルクさんも危険を察知したのか、抜き身の剣を手にゆっくりと俺の方に近寄ってきた。


「錯乱しているようだが、どう対処すればいい。魔族なんかとやり合った事ねえぞ」

「俺もねえよ。ハルはどうだ」

「魔族の討伐経験はあるけど……あれだけ人に近い魔族は初めて見たし、系統もわからないからどうにも……」


 魔族は知性を持った界異の眷属だ。そのほとんどは魔獣と同じように、系統がわかる容姿をしている。だけど、こいつにはそれがどこにも見当たらない。


「危険……だという事しかわからないな。目標は討伐だ」

「でもよ、ハル。魔力回路は大丈夫か?」

「大丈夫……と言い出いところだけど、正直かなり消耗してる。領域を展開する余力は残ってない」


 十分も使ってないとは言っても、限界点がそれと言うだけで、使うとその分消耗するし、麻痺がおこる。

 魔力に余裕はあるけど、魔術を使うとなったら別だ。


「支援魔術は使えないと思ってくれていい。オベルクさん達は最終防衛線を維持しておいてください。これから何が起こるかわからないので」

「はは、足手まといならそう言えよ。実力不足だってのは分かってんだから」

「すみません……」


 オベルクさんは、別に怒っちゃいねえと俺の背中を叩き、全員を引き連れて町の縁まで引いていった。


「シャンズも下がっていいんだぞ」

「何言ってんだ。一番弟子が師匠ほっぽって逃げるわけねえだろ」

「一番弟子はアンリだけどな」


 仮称・魔族から目を逸らさず、なるたけ小声で会話する。この世界の言葉がわかるものが若干数いるという事は、魔王となった魔族と戦った経験のある師匠から聞いている。

 魔族はさっきの位置から動いていない。頭を抱え、唸りながら錯乱している様子だ。


「先に動くか?」

「ああ、頼む。弱点が何かわからないけど、とにかく最大火力で撃って体力を削ってくれ」


 シャンズは承知したと頷き、冷気を肺一杯に吸い込み、白く吐く。体内に取り込んだ『冷』のエネルギーを『反転』することで生れる、『熱』のエネルギー。それを起爆剤として利用する、魔術陣と詠唱を重ねたシャンズの大魔術――


「『豪爆(ごうばく)』」


 詠唱が終った一秒と少し、魔族の足元と数メートル上の魔術陣が重なった瞬間、その魔術によって引き起こされた、魔術同士の衝突で発生した莫大なエネルギーが、魔族を超高温の爆発に巻き込んだ。


「相克する魔術を反転することで威力を上乗せする――五級魔術師の壁なんか撤廃すべきだぞこれ」

「はあ……はあ…、お偉いさんの思う事なんて考えるだけ無駄だぜ」


 シャンズは肩で息をしながら、皮肉を言う。何かあった時の為に魔力を温存して貰っていたけど、使い時は今で間違いなかった――けど、まだ足りない。

 魔術で舞い散る雪の中で揺らめく一つの光が見える。


「おいおいおい。魔族のやろう、まだ生きてやがるぞ……」

「魔術一撃で討伐できるなら、すでに根絶やしにできてる。だけど、消耗してるのは確かだ。あとは俺が何とかする」


 シャンズは今ので魔力枯渇に近い状況だ。これ以上は無理させられない。もともと下がらせる気だったし、一旦オベルクさんと合流してもらおう。


「下がって魔力の回復に専念してくれ。マシになったら魔眼で情報を――」

「オオオオオオーーーーー!!」


 眩暈がしそうなほどに強烈な魔族の咆哮に、俺とシャンズは耳を塞いだ。


「瀕死になって錯乱から激昂に状態変化したか?火事場の馬鹿力ってやつだな」

「ありゃ、俺の手には負えねえな……すまんが任せるぞ」


 シャンズは頬に汗を垂らして、ゆっくリと後ずさる。今まで隠していた恐怖が前面に出てきたようだ。


「後方に情報伝達だ。オベルクさんと腕の立つ者数人、回復でき次第やってもらいたいことがあるから前に来てくれってな」

「なんだ?」

「言ったら来ねえ」


 苦笑しながら、シャンズは酷使した体に鞭打ち、後方へ走って行った。

 ここからは未知の魔族と探り探りの近接戦闘――


「さて……一体一(タイマン)と行こうか」

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